中東かわら版

№101 イラン:ロウハーニー大統領が「ホルムズ和平案」を提唱

 2019年9月25日(現地時間)、ロウハーニー大統領は第74回国連総会で一般討論演説を行った。今次演説は全体で約23分で、厳しい経済制裁を続ける米国への批判、米国との交渉に関する立場の表明、「ホルムズ和平案」の宣言、米国が提案するペルシャ湾における商船護衛のための有志連合への非難などが含まれている。

 以下は、米国との交渉に関する立場の表明、及び、「ホルムズ和平案」の宣言部分に関する概要である(全文はこちら、映像はこちら)。

 

  •   イラン政府と国民を代表して宣言する。制裁下で交渉しようという問いかけに対する我々の答えは否である。過去1年半にわたり、イラン政府と国民は最も厳しい制裁に耐えてきており、貧困、圧力、制裁という敵意を持ってイランを服従させようという者とは決して交渉しない。もしも「はい」という答えが欲しいのであれば、偉大なる革命の指導者が述べた通り、交渉への唯一の道は義務(※原文でイラン核合意(JCPOA)とは記載されていない)に復帰することである。もしJCPOAという名前にアレルギーがあるのであれば、その枠組みに戻り、国連安保理決議第2231号の義務を負い、制裁を解除するべきである、そうすれば交渉への道は開けるだろう。
  •   ペルシャ湾とホルムズ海峡の安全、平和、安定、及び、発展を守るとの我が国の歴史的責任に基づき、ペルシャ湾とホルムズ海峡の変動から影響を受ける全ての国々を「希望連合(HOPE)」、すなわち「ホルムズ和平案(Hormoz Peace Endeavor)」に招待する。「ホルムズ和平案」の目的は、ホルムズ海峡域内に暮らす全ての人々の平和、安定、発展、幸福、並びに、彼らの間での相互理解、平和的な関係、友好関係の向上である。このイニシアチブは、ホルムズ海峡域内及びそれを越えた領域の国々に関わるエネルギー安全保障、航行の自由、石油の安全な輸送、その他の分野を包摂するものである。さらなる詳細は、イラン外相が関係各国に情報を伝達する予定である。
  •   どのような名目の下でも、外国軍の司令部・枢軸による地域における安全保障連合の結成は、地域情勢への明らかな干渉である。地域の安全は、米軍の撤退によって可能になるのであり、彼らの干渉と武器によってではない。中東における平和と安全に向けて最終的な道は、「内側においては民主主義、外側においては外交」である。安全を買うことは出来ず、外国政府を通じて実現できるものでもない。隣人の平和、安全、独立は、そのまま我々の平和、安全、独立である。米国は我々の隣国ではない。あなた方の隣人はイランである。

評価

 今次演説において「ホルムズ和平案」が正式に宣言された点は一つの節目と言えるが、具体的な活動内容、開始の時期、全体の構成、指揮系統、及び、参加国の義務・負担等は不明のままである。これからイラン外相が関係各国に情報を伝達するとしていることから、全貌が明らかになるには今しばらく時間がかかるだろう。他方で、イランが、米国が提案するペルシャ湾のホルムズ海峡と紅海のバーブ・ル・マンダブ海峡の2つの安全確保を目指す有志連合(詳しくは『中東かわら版』No.64)に対抗するものとしてこれを位置付けていることが窺える。これまでも、イランは、米国が提案する有志連合の結成、とりわけイスラエルの参加に対して安全保障上の脅威だとして強い不快感を示してきた。今後、「ホルムズ和平案」の実現に向けて、外交チャンネルを通じて関係各国への働きかけが行われると思われるが、米国とイランの両国から招待を受ける国にとっては二者択一を迫られる難しい状況になる可能性がある。

 また、ロウハーニー大統領は、米国との対話の可能性について、経済制裁が解除されない限りは交渉しないとの従来の立場を改めて示した。これは、17日に最高指導者のハーメネイー師が公に表明した立場と大きく変わらないと言える。確かに、24日、ロウハーニー大統領は、米国が経済制裁を解除すればJCPOAの修正や文言の追加を協議する用意があると発言したと報じられ、イランが軟化姿勢を見せたと受け止める向きもあった。今次演説でもJCPOAの名前に拘らない姿勢を滲ませており、これが外交的余地を残したと見ることもできなくはないだろう。しかしながら、現状、将来的に米国が核交渉に関する枠組みに戻る可能性は非常に低いと言わざるを得ず、米国のイランに対する経済制裁は続いていることからも、実質的に米・イラン間の緊張緩和を楽観視することは難しい。

(研究員 青木 健太)

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