中東かわら版

№100 イラン:仏独英による共同声明に関する動き

 2019年9月23日、仏独英3カ国の首脳は、14日に発生したサウジ石油施設攻撃の責任がイランにあるとする共同声明を発出したところ、その概要は以下の通りである。

 

■   我々は、9月14日に発生したサウジ領内のブカイクとフライスにある石油施設に対する攻撃を最も強い言葉で非難し、サウジアラビア王国及び国民に対して連帯の意を示す。

■   この攻撃に対してイランが責任を負っていることは、我々にとって明らかである。この他にもっともらしい説明はない。我々は、更なる詳細を確定するための調査を支援する。

■   我々は、JCPOAの継続的な遵守を行う。また、我々は、イランが履行停止を取り止め、完全に合意を遵守するよう求める。

■   我々は、今こそイランが核プログラムに向けた長期的な枠組み、及び、ミサイル・プログラム等を含む地域の安全と関連する諸問題に関する交渉を受け入れる時である、と確信している。

 

 9月24日、これに対してイラン外務省は声明を発出したところ、その概要は以下の通りである。

 

■   イラン外務省は、サウジ施設に対する「イエメン政府」の軍隊による攻撃に関する、英仏独(※順番は原文ママ)首脳による無責任な申し立てを、最も強い言葉で非難するとともに却下する

■   イエメンが正式に攻撃の責任を認めている中、サウジとイエメンの間の全面戦争の文脈で実行された攻撃に関して、第三国に責任の所在を求めようとすることは挑発であり極めて破壊的な動きである。この申し立ては、いかなる調査にも基づいておらず、証拠を欠き、「この他にもっともらしい説明はない」とする滑稽な議論に基づいている。

■   また、JCPOAとイランの核プログラムに関する再交渉への言及は、JCPOAと国連安保理決議第2231号の精神に反するものである。イランのミサイル発射実験の是非については、JCPOA及び国連安保理決議で決着しており、米国大統領も「許容範囲内」だと発言している。イランは、これらの諸点に関する交渉に向けたいかなる試みも強く拒否する。

評価

  これまで、サウジと米国が、14日に発生したサウジ石油施設攻撃をイランによるものだと非難してきたが、今次共同声明により仏独英がこの考えに同調した。今回の仏独英の動きは日本を含め国際世論の形成に少なくない影響を与えるものと考えられる。万が一、イラン領内から無人機及び巡航ミサイルが発射されたとの証拠が見つかれば、事態は新たな局面を迎えるだろう。ただ、これらの国々が何らかの証拠を有する可能性はあるものの、現時点では確たる証拠が何も公開されていない点には充分留意する必要があるだろう。今後、無人機及び巡航ミサイルの発射元の特定が焦点になると考えられる。

  なお、9月17日~30日、ニューヨークの国連本部では第74回国連総会が行われている。ロウハーニー大統領は、マクロン仏大統領(23日)、ジョンソン英首相、及び、メルケル独首相(ともに24日)と個別の会談を行ったが、今次共同声明はこれら会談に先立って発出された。このため、仏独英3首脳が一堂に会する機会を捉え、今後、イランに対して地域の安定化に向けて自制を促すために、外交的駆け引きの一環で発出した可能性も排除されないだろう。

  

【参考情報】

 

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 

 <中東かわら版>

 

・「イエメン:サウジの石油施設攻撃に関する動き」『中東かわら版』No.93

 

・「サウジアラビア:石油施設攻撃への反応」『中東かわら版』No.94

 

・「サウジアラビア:石油施設攻撃への反応 #2」『中東かわら版』No.95

 

・「イラン:サウジの石油施設攻撃への反応」『中東かわら版』No.96

 

・「イエメン:サウジの石油施設攻撃に関する動き #2」『中東かわら版』No.98

 

 <中東分析レポート>(会員限定)

 

・「フーシー派(正式名称:アンサール・アッラー)基礎資料」(2019年7月)

 

(研究員 青木 健太)

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