中東かわら版

№99 エジプト:都市部で反政府デモ

 2019年9月20日、カイロ、アレキサンドリア、ダミエッタ、マンスーラ、マハッラ・クブラーなどの都市部で、シーシー大統領の辞任を求める抗議デモが行われた。参加者は合計で数百名程度であったようである。

 デモ発生の発端は、9月初めに元俳優で実業家のムハンマド・アリー氏(スペイン亡命中)が、YouTube上で、シーシー政権下で大統領や軍が多額の公的資金を豪奢な不動産事業に投入していると告発したことにある。その後、同氏の告発に触発されたと思われる元諜報機関要員、元軍将校、シナイ半島専門家など数名が、同じくYouTube上で政府の汚職やテロ対策の問題点、シーシー大統領と諜報機関との関係などを告発した。これに対して、シーシー大統領は同15日、SNSで流布された情報はすべて嘘であり、このような虚偽情報は国家安全保障に対する脅威であると強く批判した。

 その後、金曜日にあたる20日に都市部で大統領辞任を要求するデモが行われ、スエズ市では翌21日まで続き、治安部隊が催涙ガスを放った模様である。NGOの「エジプト経済社会権利センター」は、21日のデモ後に各都市で274名が逮捕されたと発表した。また、「アル=ジャジーラ」が今回のデモを大きく取り上げて報道したため、シュクリー外相や国家情報サービス(SIS)は虚偽情報を報じたとして同局を批判した。諸政党、労組、専門職組合はデモや虚偽報道を批判し、シーシー大統領を支持する声明を出している。ワクフ省は、次の金曜礼拝において全モスクで「偽善者は噂を拡散して国民の一体性を攻撃し、経済を弱体化させようとする」という内容の説教をするよう通達した。

 

評価

 反対派を厳しく取り締まるシーシー政権下で、このように明確に政府を批判する抗議デモが起きることは稀である。今回のデモは規模は小さいものの、シーシー政権の今後を考察する上で重要な出来事と思われる。それは、ムハンマド・アリー氏の告発をきっかけにして、シーシー政権の重要支持基盤である治安機構(軍・諜報機関)の関係者から政府批判がなされたためである。告発者の素性が不明な部分も確かにあるが、告発内容そのものは事実に近いと考えてよい。それらは例えば、軍企業の不動産事業への参加、諜報機関幹部の定期的な人事交代(内部に強い権力者が現れることを防ぐため)、シナイ半島における治安機構と密輸業者の協力関係などであり、メディアの独自取材や研究で明らかにされてきたことであるからだ。そして、こうした国家の「汚い部分」を支持基盤の中から公にされることは、支持基盤内部にシーシー反対派が存在することを意味する。もっとも、このことは2018年大統領選挙で元空軍司令官のシャフィーク元首相とアナーン元参謀総長が立候補した時点で明らかになっていたことである。

 政党、メディア、職能組合への締め付けは既に大規模に行われ、総じてこれらは政府支持の行動をとるのみであるが、今後は治安機構の人事変更を通じて、支持基盤である軍と諜報機関に対する統制を強化すると考えられる。

(研究員 金谷 美紗)

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