中東かわら版

№97 チュニジア:大統領選挙第一回投票の結果

 2019年9月17日、独立最高選挙機構(ISIE)は15日に行われた大統領選挙の結果を発表した。過半数票を獲得した候補者はおらず、得票上位2者のカイス・サイード(無所属)とナビール・カルウィー(チュニジアの心党)による決選投票が行われることとなった。なお、現段階では決選投票の日程は発表されておらず、9月29日、10月6日(議会選挙と同日選)、10月13日が候補に挙がっている。

 

・有権者登録数 7,074,566
・投票総数 3,465,184(投票率48.98% ※筆者計算)
・有効票 3,372,973
・無効票 68,344
・白票 23,867

 

【投票結果】(得票数順)

候補者名

所属、主な経歴

得票数

得票率

カイス・サイード

無所属;憲法学教授

620,711

18.40%

ナビール・カルウィー

チュニジアの心党;TV局社主

525,517

15.58%

アブドゥルファッターフ・ムールー

ナフダ党

434,530

12.88%

アブドゥルカリーム・ズバイディー

無所属;国防相

361,864

10.73%

ユースフ・シャーヒド

タヒヤ・トゥーニス党;首相

249,049

7.38%

アフマド・サーフィー・サイード

無所属

239,951

7.11%

ムハンマド・ルトフィー・ムライヒー

人民共和連合党

221,190

6.56%

サイフッディーン・マフルーフ

尊厳連合

147,351

4.37%

アビール・ムーシー

自由憲法党

135,461

4.02%

ムハンマド・アブー

民主潮流党

122,287

3.63%

ムハンマド・ムンシフ・マルズーキー

チュニジア意思運動党;元大統領

100,338

2.97%

マフディー・ジュムア

チュニジア選択肢党;元首相

61,371

1.82%

ムンジー・ラフウィー

統一民主国民党

27,355

0.81%

ムハンマド・ハーシミー・ハームディー

愛の潮流党

25,284

0.75%

ハンマ・ハマーミー

労働者党

23,252

0.69%

イルヤース・ファフファーフ

タカットル党;元観光相

11,532

0.34%

サイード・アーイディー

バニー・ワタニー党;元保健相

10,198

0.30%

ウマル・マンスール

無所属;元法相

10,160

0.30%

ムフシン・マルズーク

チュニジア計画運動党

7,376

0.22%

ハンマーディー・ジバーリー

無所属;元首相

7,364

0.22%

ナージー・ジャルール

無所属

7,166

0.21%

アビード(ウバイド)・ブリーキー

チュニジア前進党;元公務員行政相

5,799

0.17%

サルマ・ルーミー

チュニジア希望党;元観光相

5,093

0.15%

ムハンマド・スガイイル・ヌーリー

無所属

4,598

0.14%

スリーム(サリーム)・リヤーヒー

チュニジア呼びかけ党

4,472

0.13%

ハーティム・ブーラビヤール

無所属

3,704

0.11%

 

評価

 投票の結果、現首相や元首相、大臣経験者といった有力候補者を抑えて、政界の中心にはいない「非エスタブリッシュメント」の候補者が決選投票に進むことになった。この結果からは、政治家が権力闘争に明け暮れ、重要な社会経済政策(失業対策、開発、汚職撲滅)が実行されないことに有権者が不満を抱き、政治に不信感をもっていることが分かる。この点は投票率の低下にも如実に表れている。2014年の大統領選挙および議会選挙では、投票率はそれぞれ64%と69%だったが、2018年5月の地方議会選挙では35.6%、今回の大統領選挙は48%と、明らかに国民の足が選挙から遠ざかっている。有権者の票がイスラーム主義と世俗主義に分かれなかったことは興味深い点である。

 カイス・サイード氏(61歳)は憲法を専門とする大学教授だが、政治経験はない。選挙運動においても資金援助を拒み、わずかな人数で選挙運動を行ってきたことが、有権者の「非エスタブリッシュメント」選好と合致したと考えられる。一方、同氏は議会に支持基盤を持たないため、大統領に就任した場合には、政策決定において首相や議会との調整が課題になるだろう。

 カルウィー氏(56歳)は、自身が社主であるネスマ・テレビ局の番組で貧困層への支援を行う様子を報じ、「人々の側に立つ人物」という印象を強く持たれている。これが有権者の投票要因となったと考えられる。ただし、同氏はチュニジアの呼びかけ党の創設メンバーであり(2017年離党)、2014年大統領選挙でシブシーを支持したように、実際には政界への強いパイプを持つ。最大の問題は、カルウィー氏がマネー・ロンダリングと脱税の容疑で8月に逮捕され、現在も拘留されたままである点である。カルウィー陣営は、逮捕はシャーヒド政権の政治的意図にもとづくものであると批判している。裁判所へのカルウィー氏釈放要請は数度却下されており、拘留されたまま決選投票が行われるのか、また同氏が当選した場合に大統領に就任できるのかどうかという問題も存在する。

 

*関連情報として下記もご参照ください。

 

(研究員 金谷 美紗)

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