中東かわら版

№96 イラン:サウジの石油施設攻撃への反応

 2019年9月14日に発生したサウジアラムコ社の石油施設への攻撃(『中東かわら版』No.93参照)に関して、18日までのイラン側の反応を取りまとめたところ、その概要は以下の通りである。

 

1. ロウハーニー大統領(18日閣議での発言)

●イエメンは学校、病院、市場などを標的にしたわけではなく、警告を発するために、工業の中心地を攻撃したのである。

●敵はこの警告から教訓を学び、人々が自由と幸福に暮らせるよう、戦火を鎮めるために行動するべきである。

 

2. 外務省(15日付声明)

●サウジ主導の有志連合軍がイエメン紛争に介入して約5年が経過するが、彼らはその間あらゆる戦争犯罪を犯してきた。イエメンはこうした横暴に対して抵抗の姿勢を示してきた。

●外交関係において「敵意」の表明にも最低限の論理が必要だが、米国はそれすら持ち合わせていない(※)。米国はイランに対して「最大の圧力」政策を適用しているが、それは失敗しており、「最大の虚偽」に向かっている。

※9月15日付ポンペオ米国務長官のツイートを指すと思われる。

 

3. 国防省(18日付声明)

●(サウジ石油施設攻撃は、)サウジとイエメンという二国間の争いであることは明瞭である。当事者の片方はイエメンであり、彼らはこの行為を実行したと発表した。

●イエメンは過去数年間、厳しい攻撃に曝され、多くの犠牲を被ってきた。軍事的観点から言えば、約2年前、イエメンは同様の攻撃を実行し、UAEの空港を襲撃し射程距離1,200キロメートルに及ぶミサイルを発射したことがある(※発言ママ)。

 

 また、18日の国営通信『IRNA』によれば、イラン政府は在イラン・スイス大使館(※同大使館は、イランにおける米国の利益を代表している)に対して、サウジ石油施設攻撃に関与していない旨を伝達する公式書簡を16日に発出した。

 

評価

 今回のサウジの石油施設攻撃に関して、18日までのところイランは一貫して関与を否定しており、米国やサウジの主張と真っ向から対立している。またイランは、同攻撃を、「アンサール・アッラー」(俗称:フーシー派)が掌握するサナアのイエメン軍による自衛を目的とした報復であると位置づけている。米国やサウジが本事件後早くからイランを一方的に非難する中、もう一方の当事者である「アンサール・アッラー」の主張の正当性にも目を向けさせようとする様子がうかがえる。

 こうした動きがある中、17日、最高指導者のハーメネイー師は「米国とはいかなるレベルでも交渉しない」との強硬姿勢を改めて明らかにした。9月下旬の国連総会に合わせて米・イラン間の対話があり得るかとの憶測も存在したが、ロウハーニー大統領の訪米実現自体がビザ発給の問題から難しいという混沌とした状況の中、短期的に限って見れば、今後の米・イラン対立の緊張緩和に向けた見通しは非常に流動的であると言わざるを得ない。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イエメン:サウジの石油施設攻撃に関する動き」『中東かわら版』No.93

・「サウジアラビア:石油施設攻撃への反応」『中東かわら版』No.94

・「サウジアラビア:石油施設攻撃への反応 #2」『中東かわら版』No.95

 <中東分析レポート>(会員限定)

・「フーシー派(正式名称:アンサール・アッラー)基礎資料」(2019年7月)

(研究員 青木 健太)

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