中東かわら版

№95 サウジアラビア:石油施設攻撃への反応 #2

 2019年9月18日、サウジのムハンマド皇太子が、米国のポンペオ国務長官とジェッダで会談し、14日に発生したサウジアラムコ社の石油施設への攻撃への対応について協議した。ムハンマド皇太子が、本件を地域の安定と世界のエネルギー経済にとっての脅威と位置づけたことを受けて、ポンペオ国務長官は、攻撃が「フーシー派(正式名称:アンサール・アッラー)による」ものでも、「イラクから発射された」ものでもなく、「イランによる攻撃」だと説明した。そしてこの上で、米国が、本件の詳細解明とイランへの脅威に対抗するために協力する旨を述べた。また、同日、サウジは国防省を通じて、米国主導の有志連合(ペルシャ湾及び紅海を航行する船舶を共同で護衛するというもの)への参加を発表した。

 

評価

 週例閣僚会合が開かれた17日、サウジでは関係機関から本件に係る公式見解が立て続けに発表された。翌18日には、ムハンマド皇太子が各国首脳への事情説明を通じ(ロシアのプーチン大統領、韓国の文在寅大統領との電話会談等)、本件を「世界の意志が試されるもの」と言い表して、サウジへの支持を集めた。また、同皇太子が大臣を兼任する国防省は、本件で使用された武器(ドローンと巡航ミサイル)を、5月15日の攻撃に使用されたものと並べて公開し、いずれも「イラン製」であることを訴えた。

 こうした中、サウジにとって、域外における安全保障上の最大のパートナーである米国との会談は注目を浴び、結果として有志連合への参加の発表に至った。ただし、サウジ側が、「イラン製の武器」との表現を通じて、本件における主体者の特定を避け続けているのに対して、米国は明確に主体者をイランと特定するなど、両国の足並みは必ずしも一致しない。おそらくサウジは、本件を受けてなお、影響の大きさに鑑みてイランとの直接的な戦争は避けたい考えである。しかし、事態がエスカレートすれば、サウジがとるべき「反応」の選択肢が、次第に軍事的なものしか残らなくなる。この点は米国にとっても同様で、トランプ米大統領は18日、イランに対する制裁の大幅強化に言及した。しかし、すでに「最大限の圧力」政策が続けられている状態では、具体的な軍事行動が現実味を帯びることになってしまい、域内の緊張を一層高める事態につながる。こうした背景を考慮すれば、サウジがこのタイミングで有志連合への参加を表明したのは、米国のイランに対する姿勢をさらに強化させようとするものではなく、むしろ米国を安心させることで、米国・イラン間の緊張を緩和する目的でなされた可能性もある。

 

【参考】

「サウジアラビア:ドローンによる石油パイプライン攻撃」『中東かわら版』No.32

「バハレーン:米国の有志連合結成案への協力と各国の反応」『中東かわら版』No.72

「イエメン:サウジの石油施設攻撃に関する動き」『中東かわら版』No.93

「サウジアラビア:石油施設攻撃への反応」『中東かわら版』No.94

(研究員 高尾 賢一郎)

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