中東かわら版

№93 イエメン:サウジの石油施設攻撃に関する動き

 2019年9月14日、サウジアラビアのブカイクとフライスにあるアラムコ社の石油施設が無人機によるものと思われる攻撃を受け、炎上した。16日付『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノン紙)によると、攻撃によりアラムコ社の生産力が日量1050万バーレルから同570万バーレルへと減少し、生産量の回復には数カ月を要する見通しである。一方、同紙はアラムコ社によるタンカーへの積み込みは17日から正常化するが、アジア向けの積み荷の一部が当初予定されていた軽質油から重質油に変更されたとも報じた。

 本件については、「アンサール・アッラー」(俗称:フーシー派)が掌握するサナアのイエメン軍が攻撃を実施したと発表した。発表によると、イエメン無線空軍が合計10機の無人機でブカイクとフライスの石油施設を攻撃し、製油生産の半分を停止させたとの由である。なお、サナアのイエメン軍の報道官は、ブカイクとフライスは依然としてイエメン軍の火力の射程範囲内にあると強調し、いつでも攻撃が及びうると述べて同地の諸企業と外国人に警告した。一方、サウジとアメリカは、攻撃をイランの仕業とみなし、攻撃そのものがイエメンからではなく、ブカイク、フライスから見て北東方向から行われたものであるとの見解を示している。

地図:2019年9月14日の攻撃関連図(筆者作成)
凡例:赤実線(アンサール・アッラーが攻撃を実施と発表)、緑点線(サウジ、アメリカは「北東方向」から攻撃が行われたと主張)、オレンジ点線(イラク政府は自国領から攻撃が行われたとの説を否定)

評価

 アンサール・アッラーは、多数の弾道ミサイル、無人機を持ち、これまでもイエメン紛争で敵対するサウジやUAEの領内に多くの攻撃を実施したと発表している。その中には、射程距離が2500kmに達する無人機(或いは巡航ミサイル)のような兵器も含まれ、高度な兵器はイラン起源の技術に基づくと考えられている。アンサール・アッラーは、この種の攻撃をイエメン紛争に介入して同国の社会資本などを破壊するサウジ・UAEに対する抑止・報復と位置づけている。すなわち、イエメン紛争で何らかの停戦や政治的妥結に至れば、アンサール・アッラーの側に攻撃を行う理由はないことになる。今般の攻撃をはじめとするイエメンからサウジなどへの弾道ミサイル・無人機を用いた攻撃をイランとアメリカ、サウジとの緊張と直結させる論評や憶測も見られるが、今世紀最大級の人道危機とも目されるイエメン紛争とその惨禍を考慮しない分析は、現実から遊離したものにならざるを得ないだろう。

  

【参考情報】

フーシー派(正式名称:アンサール・アッラー)基礎資料」 中東分析レポート2019年2号

(主席研究員 髙岡 豊)

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