中東かわら版

№92 イスラエル:議会選挙前の動向

 2019年9月17日、今年の4月に行われた議会選挙に係る連立交渉の失敗を受け、2回目の議会選挙が実施される予定だ。完全比例代表制(全国1区)で、議席数は120議席。足切り率は3.25%であり、61議席以上が過半数である。

 現時点までの今次選挙の傾向として、以下のことが挙げられる。

  1. 選挙に参加する政党数の減少(今回は32政党。4月の選挙は47政党)
  2. 政党連合の増加(①ヤミナ:ニューライトと右派政党連合、②連合リスト:アラブ系の政党4党、③労働・ゲシェル:労働党とゲシェル、④民主連合:メレツ、民主イスラエル(バラク元首相が結成)、労働党のStav Shaffir、緑の運動)
  3. トランプ大統領からネタニヤフ首相へのプレゼントが「無いに等しい」(前選挙の際のゴラン高原に対するイスラエルの主権の承認など)
  4. 右派・左派の曖昧化(イスラエル・ベイテヌと「青と白」が、ネタニヤフ首相を排除したリクードとの連立を主張し、実際にリクードの幹部と協議している)

 また、表1は、イスラエルの主要報道機関3社が9月に入って行った世論調査での予想獲得議席数の平均値を示したものである。

表1:『CH13』『CH12』『Kan News』が9月に実施した世論調査の平均値(予想獲得議席数)

政党

議席数

政党

議席数

リクード党

32

民主連合

7

青と白

31

シャス

7

連合リスト(アラブ)

11

ユダヤ・トーラ連合

7

ヤミナ

10

労働・ゲシェル

6

イスラエル・ベイテヌ

9

 

(https://www.haaretz.com/israel-news/elections?countを基に筆者作成)

評価

 今次の選挙に向けて各政党は様々な主張をしているものの、各政党の立ち位置を大局的に捉えようとするならば、以下の図1のように示すことができると考える。図1の縦軸は『西岸地区のユダヤ人入植者地の維持・併合』、横軸は『ネタニヤフ首相との親密度』である。

図1:政党勢力図(略図)

(各種報道を基に筆者作成)

 今次の選挙は、前回の選挙と同じく、リクード党と「青と白」の二大政党を中心に展開しており、またイスラエル・ベイテヌが連立交渉におけるキングメーカーになることが予想される。二政党を中心とした構図の中で、現状、図1の右上に位置する政党・連合(いわゆる右派、宗教政党のリクード、ヤミナ、シャス、ユダヤ・トーラ連合)は、ネタニヤフ首相の支持、西岸地区の入植地拡大・併合、超正統派に対する便宜供与の点で、ある程度まとまっている。だが、これらの政党の予想獲得議席数は、56議席と過半数を超えていない。そのため、各右派・宗教政党が、ネタニヤフ首相の続投を前提とした右派政権の樹立を目指す場合、他党との連立、現実的にはイスラエル・ベイテヌとの連立交渉を行う必要があるだろう。その場合、4月の選挙と同様に、超正統派への優遇措置の廃止を主張する同党との連立交渉は難航すると予想される。

 他方、図1の左側に位置するいわゆる左派政党の「青と白」、民主連合、連合リスト、労働・ゲシェルは、まとまりを欠いている。その理由は、西岸地区の入植地の存在自体に反対する民主連合と連合リストが、入植地の存在を認める(併合と明言しない)「青と白」と相容れないためである。また、労働・ゲシェルは、社会福祉、経済問題を自党の主な争点に定めており、左派政党としての連合から距離を取っている。

 こうした状況のなか、「青と白」はネタニヤフ首相を排除したリクードとの連立を主張し、自党をアピールしている。イスラエル・ベイテヌは、「青と白」との協力関係を築けていないものの、同じくネタニヤフ首相の解任を同じく主張している。この主張の実現可能性はともかくとして、このように両有力政党が、右派としてのリクードではなく、ネタニヤフ首相個人への攻撃に主眼を置いていることから、今次の選挙では従来のような左派・右派の構図では捉えきれない面も出てくるだろう。

(研究員 西舘 康平)

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