№89 アフガニスタン:ハリールザード米国和解担当特別代表のインタビュー放送
2019年9月2日、独立系の民放『トロ・ニュース』がザルマイ・ハリールザード米国アフガニスタン和解担当特別代表の独占インタビューを放送したところ、概要は以下の通りである。
本インタビュー番組は、米国・ターリバーン間の第9回協議を8月31日に終えたばかりのハリールザード特別代表が、その直後にアフガニスタンを訪問した際に収録されたものである。交渉当事者から米国・ターリバーン間の協議の進捗について語られ、ノーカットで約1時間放送された。
●米国・ターリバーン間で、①米軍撤退、②テロ対策、③アフガニスタン人同士の対話、④停戦、について話し合った。
●米国・ターリバーンは、原則的に、文面の上で合意に達した。但し、まだトランプ大統領からの了承を取り付ける作業が残っている。
●文書が効力を発すれば、米軍は、135日以内に5つの基地から5,000人が撤収することになる。履行に向けて、ターリバーンは米国が指定した条件を満たす必要がある。その後の撤退スケジュールを現時点で明かすことはできない。
●テロ対策(②)とは、ターリバーンが自ら支配する地域を、米国およびその同盟国に危害を加えるためにアル=カーイダ等の国際テロ組織に使用させない、ということである。米国は9.11の発生を受けて、その首謀者であるアル=カーイダが匿まわれていたアフガニスタンにやって来た。悲劇を繰り返さないよう、この点についてターリバーンと話し合った。
●停戦(④)は、議論の末、アフガニスタン政府とターリバーンの間で話し合われるべきことだとの結論に至ったため、本合意には含まれていない。
●米国は、ターリバーンを「イスラーム首長国(注:ターリバーン「政権」時代の呼称)」という政府として認めず、ターリバーンという一つの勢力として認めると伝えた。国際的に認められた政府はアフガニスタン・イスラーム共和国のみである。
●本年9月28日に行われる大統領選挙について、ターリバーンと深く話し合っていない。
評価
本合意は、アフガニスタン政府・ターリバーン間の和平合意と異なり、ターリバーンと彼らが「占領者」と見做す米国との間の「取引」でしかない。米国とターリバーンにとっては、それぞれ本合意から得られる利益があるものの、アフガニスタン政府及び国民が望む停戦を実現させるものではない。このため、本合意がどのような帰結をもたらすのか、を楽観視することはできない。
確かに、米軍完全撤退が実現すれば、ターリバーンが抵抗運動を継続する理由はなくなることから、本合意は恒久的な和平に向けた第一歩と言える。理想的には、今後、ターリバーンとアフガニスタン政府が直接交渉に入ることが望まれよう。しかし、ターリバーンはアフガニスタン政府との直接交渉を拒絶していることから、近い将来、アフガニスタン人同士の対話が開始されるかは未知数である。また、ターリバーンはアフガニスタン全土を実効支配しているわけではないことから、国際テロ組織の活動を根絶する約束が出来る立場にはない。このため、米軍撤退後、アフガニスタンが再び国際テロ組織の安息地となる危険性が低減すると考えることは早計であろう。
また、ターリバーンが将来を見据えて軍事攻勢を激化させる可能性も排除されない。ターリバーンは、北東部クンドゥーズ州(8月31日)、及び、バグラーン州(9月1日)に大規模な攻勢を仕掛けた上、9月2日には首都カーブルで外国人宿泊施設「グリーン・ヴィレッジ」近くでトラック積載型爆弾を用いた自爆攻撃を実行し、死者16人、負傷者119人の被害を出した。犠牲者の中には、英国人2人、及び、ルーマニア人1人を含む外国人が複数含まれていたと報じられた。『AP通信』に対して、ザビーフッラー・ムジャーヒド・ターリバーン報道官が「我々は強い立場から交渉する」と述べていることが示すように、米国・ターリバーン間の協議が継続されている間はもちろんのこと、米軍撤退後もターリバーンの軍事攻勢が和平協議と同時並行で継続される可能性がある。このため、短期的に治安が改善するとの見通しを持つことは困難であることから、今後より一層の厳重な警戒が必要である。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「カタル:米国とターリバーンの2019年3回目となる和平交渉開始」『中東かわら版』No.56
・「アフガニスタン:カブール等での爆破事件の発生」『中東かわら版』No.58
・「アフガニスタン:犠牲祭に際する声明の発出」『中東かわら版』No.77
<イスラーム過激派モニター>(会員限定)
・「ターリバーンが2019年の攻勢開始を宣言」(「2019年1号」)
・「カブールでの爆破事件」(「2019年5号」)
*9月13日の中東連続講演会 モハバット・アフガニスタン・イスラム共和国大使「アフガニスタンの現状について」において、最近のアフガニスタン情勢についてお話を伺う予定です。
(研究員 青木 健太)
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