中東かわら版

№88 イラン:第3段階目となるJCPOA履行一部停止を警告#2

 2019年9月3日付の『ファールス通信』(保守系)によれば、キャマールヴァンディー原子力庁報道官は「もしイランが望めば、1~2日以内に(ウラン濃縮度を)20%に引き上げることができる」と述べた。同日、国会で演説したロウハーニー大統領もまた、「JCPOA当事国が合意を履行すれば、履行一部停止について再考するかもしれない。しかし、何も確固たる措置が取られなければ、数日以内に第3段階目に至る」と警告した。

 一方、同日付『ロイター』は、フランスがイランに対して、石油収入を担保として150億ドル(約1兆6000億円)を限度額とする融資の開始を条件付きで検討している、と報じた。ルドリアン外相によれば、イランによるJCPOAの遵守等が開始の条件となる。また、同外相は米国の同意が不可欠だと述べた。

評価

 現在、イランとJCPOA当事国間の駆け引きが行われている状況であり、最終的にイランがどのような決断を下すのか、あるいはフランスが米国の同意を取り付けて融資を開始できるのかについて、現時点で予断することは出来ない。但し、ルドリアン外相が、これまで累次行われてきた仏・イラン間の協議内容の一端を認めたことは特筆に値するだろう。融資が開始されれば、イランは石油輸出による外貨獲得が見込める。他方、9月3日にイランの民間宇宙機関「Iran Space Agency」と関連2機関に新しく制裁を発動するなど、米国の対イラン政策に軟化の兆しが見られない状況の中、米国がイランを利するフランスの提案を許容するかどうかが不安要素である。今後の展開は、米国がイランを最後まで追い詰めるつもりなのか、それともどこかで妥協する用意があるのか、を測る試金石になり得る。

 また、数日以内に制裁解除に匹敵するような措置が取られない場合、イランは警告どおりJCPOAの履行一部停止に踏み切る可能性がある。天然ウランに含まれるウラン235(核分裂を起こし大きなエネルギーを放出する)の含有量は、一般的に約0.7%とされており、これを原子力発電用に使用するためには3~5%へ、核兵器に使用するのであれば90%へと濃縮することが必要とされる。ウラン濃縮度は20%を超えると高濃縮ウランに分類され、これは主に研究炉で使用される。核兵器を使用するレベルに直結こそしないものの、現在の4.5%から大きく進展することになる。このため、仮にイランがこのレベルへの濃縮に着手した場合、国際社会からの厳しい批判は免れないであろう。なお、イランがウラン濃縮度の引き上げ以外の方法で履行を一部停止する可能性もあるため、状況に応じた慎重な評価に基づくイランへの対応が求められよう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン・米国:JCPOAの履行一部停止を表明」『中東かわら版』No.27

・「イラン:低濃縮ウランが規定貯蔵量を超過」『中東かわら版』No.59

・「イラン:ウラン濃縮の制限超過を発表」『中東かわら版』No.60

・「イラン:第3段階目となるJCPOA履行一部停止を警告」『中東かわら版』No.86

<中東分析レポート>(会員限定)

・「イラン核合意を巡るイランの強硬姿勢 ~国内的要因を中心とした背景と諸相~」(2019年8月)

(研究員 青木 健太)

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