中東かわら版

№86 イラン:第3段階目となるJCPOA履行一部停止を警告

 2019年9月2日、ザリーフ外相はラブロフ露外相とモスクワで会談を行った。同会談後の共同記者会見で、ザリーフ外相は「もし欧州が期限までに義務を果たせないのであれば、第3段階の履行一部停止措置は確実に実行される」と発言した。また、同外相は、「我々はロシアと中国をJCPOAの履行において手助けしてくれるパートナーと考えている・・・(中略)・・・残念ながら、欧州からは同じ姿勢が見られない」と述べた。

 同日、モウサヴィー外務省報道官は、第3段階のJCPOA履行一部停止は準備されている、もし外交的努力が望ましい結果を生めばこの限りではない、と述べた

 また、同日、ラビエイー政府報道官もテヘランで記者会見を開き、イランは第3段階目のJCPOA履行一部停止を行う決意を持っているとした上で、イランから欧州への要求事項が実現しない場合は停止に踏み切る、との立場を示した

 本年7月7日、イランはJCPOA当事国に対して新たに60日間の猶予を与え、この期間に合意履行に関する進展がなければ第3段階に進むと警告していた(『中東かわら版』No.60)。

評価

 イランが期限として設定した9月6日が刻々と迫る中、イランは様々な手段を通じてJCPOAで約束された経済的利益を得ようと努力している。

 先ず、イランはフランスと活発な協議を継続している。8月23日、ザリーフ外相はフランスを訪問し、マクロン大統領・ルドリアン外相とJCPOAを巡る課題について協議した。翌々日25日には、G7サミットが開催されていたビアリッツ(フランス)をザリーフ外相が電撃訪問し、フランス政府関係者と経済制裁解除に代わり得るイラン救済の方策について協議した(なお、ザリーフ外相と米国代表団との接触は確認されていない)。続く8月31日にも、ロウハーニー大統領はマクロン大統領と電話会談し、ザリーフ外相の訪仏を有意義なものとした上で、JCPOA当事国は当初の約束を果たすべきだと訴えた。これらから見て、事態の打開に向けて、イランがフランスに大きな期待を寄せている様子が窺える。実際、アラーグチー外務事務次官率いる一行は9月2日にフランスを訪問し、イラン・フランス両国の専門家が10時間以上に渡って首脳電話会談で提案された議題について協議を行った。

 次に、ザリーフ外相の精力的な外交活動にも着目すべきであろう。8月中旬から9月上旬にかけて、ザリーフ外相は、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、フランス、中国、日本、マレーシア、ロシアを訪問し、イランの立場を改めて説明し理解を求めた。こうした地道な努力は着実に実を結び始めている。例えば、8月19日、ザリーフ外相と面会したハーヴィスト・フィンランド外相は、欧州がイランとの貿易を促進するために設立したINSTEXを支援する立場を明らかにした。米国によるイランに対する「最大の圧力」政策が続く中、イランとしては諸外国から自らの立場への理解を得たいものと考えられる。

 仮に、欧州からイラン側が納得できる救済措置がとられない場合、イランはJCPOAの履行一部停止に踏み切る可能性がある。しかし、JCPOAを巡っては、イラン・JCPOA当事国間のチキンレースの様相を呈しており、双方の行動は駆け引きの一貫との側面が強いことから、イランの履行一部停止がブレイクアウト・タイム(核兵器1個分の核燃料の製造にかかる期間)の短縮にどの程度実質的な影響を持つのかは慎重に見極める必要がある。また、イランは、石油の輸出入、及び、銀行取引の再開を強く希望していることから(『中東分析レポート』2019年8月、【会員限定】)、欧州がこれらの点で如何なる方策を示すのかが今後の趨勢に影響を与えるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン・米国:JCPOAの履行一部停止を表明」『中東かわら版』No.27

・「イラン:低濃縮ウランが規定貯蔵量を超過」『中東かわら版』No.59

・「イラン:ウラン濃縮の制限超過を発表」『中東かわら版』No.60

<中東分析レポート>(会員限定)

・「イラン核合意を巡るイランの強硬姿勢 ~国内的要因を中心とした背景と諸相~」(2019年8月)

(研究員 青木 健太)

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