中東かわら版

№85 パレスチナ:自治政府が抱える財政問題

 2019年8月26日付の『マアーンニュース』(パレスチナ)は、PA(パレスチナ自治政府)の財政問題について要旨以下の通り報じた。

  •  イスラエルが、PAの代わりに徴収した税金のパレスチナ側への送金(手形の引き渡し)を停止した事態は8月末の時点で6カ月目を迎える。停止の理由は、PAが殉教者と捕虜の家族に支払ってきた給付金に相当する額(毎月4180万シェケル。6月末の時点で合計2億6180万シェケル)をPAの税収から差し引く措置をイスラエルが今年の1月から始めたことを受け、PAがイスラエルからの手形の受け取りを拒否していること。
  •  PAはイスラエルからの手形の受け取りを拒否したことで、毎月7億シェケルの収入を失い、税収の3分の1を失った。
  • 2月から8月までの手形の合計金額は55億シェケルに上る。イスラエルから手形の受領を拒否したPAには自治区領内からの徴収しか残されていないが、その額は毎月3~4億シェケルほどで、毎月の公共支出12億シェケルの3分の1以下しかない。
  • PAの受領拒否によって、パレスチナ人民の困窮が深刻化したため、これに対応すべくイスラエル諜報部門はネタニヤフ首相に政策提言を行った。だが、PAはイスラエル側の提案をすべて拒否した。
  • 22日、イスラエルとPAは石油と燃料に係る税金の徴収をPAが行うことに合意した。この徴収はイスラエルが過去24年間に亘りPAに代わり実施してきたもので、今回の合意はパレスチナ側が働きかけた。
  • この合意によりPAは、毎月2億シェケルの税収を見込める。これは今年の1月以降のPAによる銀行からの毎月の借り入れ額に相当するが、PAの銀行からの借入額は上限に達しており、現在は停止している。
  • イスラエルとの合意は財政危機を解決しない。この合意と自治区領内からの税収、カタルからの支援金を合わせると、PAの毎月の税収はおよそ6億6千万から7億6千万シェケルと見込まれる。これに海外からの支援を含めたとしても、PAは緊縮財政を脱することはできない。PAは政府職員の給与を半額ほど支払い、今後数カ月のうちに最低限の支出しかできない。

評価

 22日にイスラエルとPAが交わした合意は、西岸地区の治安悪化を懸念するイスラエルと、政府の歳入不足の解決を目指しながらも、イスラエルによる税収からの差し引き措置を認めないPA間の妥協の産物だと言えよう。また、PA側からすれば、殉教者と捕虜の家族への給付金の削減を認めないという従来の立場を維持できる合意である。

 もっとも、今次の記事でも言及されている通り、燃料関係の税収が確保されたとしても、PAの財政状況の抜本的な改善には至らない。そのため、PAは比較的リスクの低い海外からの支援や融資、とりわけ支援の獲得を働きかける可能性が高いだろう。だが現状では、パレスチナ問題に対する国際的な関心が低いため、PAが財政難を改善する程の支援を受けることは容易ではないと思われる。

(研究員 西舘 康平)

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