№81 チュニジア:大統領選挙立候補者リスト(暫定)
2019年8月15日、独立最高選挙機構(ISIE、選管)は、9月15日実施予定の大統領選挙への立候補者暫定リスト(26名)を発表した。今後、暫定リストに対する異議申し立て期間を経て、31日に立候補者最終リストが発表される。過半数の得票率に達する候補者がいなかった場合は、第1回投票の結果発表から2週間以内に上位2者による決選投票が行われる。大統領の任期は5年、再選1回まで。
なお、選挙法(2014年)第41条により、立候補者は選管に届け出る際に、国会議員10名以上、または地方自治体の長40名以上、または有権者10,000名以上(10選挙区以上、各選挙区で500名以上)の推薦書類を提出しなければならない。下記リストの人物は、これらの要件を満たしたとISIEが判断した人物である。
- 主な選挙日程
選挙運動 9月2日~13日
投票日 9月15日
暫定結果発表 9月17日
決選投票 10月初旬(第1回投票の最終結果発表から2週間以内)
- 立候補者暫定リスト
サルマ・ルーミー |
チュニジア希望党(元呼びかけ党);元観光相;女性 |
アビール・ムーシー |
自由憲法党党首(元立憲民主連合);女性 |
ナビール・カルウィー |
チュニジアの心党党首(元呼びかけ党);TV局社主 |
ムンジー・ラフウィー |
統一民主国民党;国会議員 |
ムハンマド・アブー |
民主潮流党首;元首相付き大臣(2011-12) |
ムハンマド・ルトフィー・ムライヒー |
人民共和連合党首 |
マフディー・ジュムア |
チュニジア選択肢党党首;元首相(2014-15) |
ハンマーディー・ジバーリー |
無所属(元ナフダ党);元首相(2011-13) |
ハンマ・ハマーミー |
労働者党党首;人民戦線(左派政党連合)代表 |
ムンシフ・マルズーキー |
チュニジア意思運動党党首;元大統領(2011-14) |
アブドゥルカリーム・ズバイディー |
無所属;現国防相 |
ムフシン・マルズーク |
チュニジア計画運動党首(元呼びかけ党幹事長) |
ムハンマド・スガイイル・ヌーリー |
無所属 |
ムハンマド・ハーシミー・ハームディー |
愛の潮流党党首;TV局社主 |
アブドゥルファッターフ・ムールー |
ナフダ党副党首;現国会議長 |
ウマル・マンスール |
無所属;元法相(2016)、元チュニス県知事(2016-17) |
ユースフ・シャーヒド |
タヒヤ・トゥーニス党党首(元呼びかけ党);現首相 |
カイス・サイード |
無所属;チュニス大学教授(憲法) |
イルヤース・ファフファーフ |
タカットル党;元観光相(2011-14) |
スリーム(サリーム)・リヤーヒー |
チュニジア呼びかけ党(元幹事長) |
サイード・アーイディー |
バニー・ワタニー党党首(元呼びかけ党);元保健相(2015-16) |
サーフィー・サイード |
無所属;ジャーナリスト |
ナージー・ジャルール |
無所属(元呼びかけ党幹事長) |
ハーティム・ブーラビヤール |
無所属(元ナフダ党) |
アビード(ウバイド)・ブリーキー |
チュニジア前進党党首;元公務員・行政相(2016-17) |
サイフッディーン・マフルーフ |
尊厳連合 |
評価
チュニジアでは、2011年以降の政治的自由化にともなう政党の増加と権力闘争による政党の合従連衡が続き、上記の通り、多数の政党から大統領選挙への立候補者が出た。特に注目されることは、最近2~3年の間に、二大政党の一翼であるチュニジア呼びかけ党(「呼びかけ党」と略)から複数の政党が分離結成され、これらの政党からも立候補者が出ていることである(上記表の太字)。特に、シャーヒド首相が離党してタヒヤ・トゥーニス党(「チュニジア万歳」の意味)を結成したことは、呼びかけ党にとって大打撃であった。シャーヒド首相とハーフィズ・カーイド・シブシー(シブシー故大統領の息子、呼びかけ党幹部)との対立の過程で多くの呼びかけ党議員が離党し、国会内で新会派(国民連合)を結成した。今や、この会派は第一党のナフダ党に次ぐ第二勢力を形成している。したがって、呼びかけ党に代表されてきた世俗主義の票は、ある程度の分裂は避けられないだろう。
第一党のナフダ党からはガンヌーシー党首の立候補が取り沙汰されていたが、直前になってムールー副党首の擁立が決定された。2011年からの移行過程においてイスラーム主義と世俗主義が激しく対立し、暗殺事件までおきた経験を踏まえ、ナフダ党は自党のイスラーム色を薄めることに努めてきた。政治的イスラーム(イスラーム的価値に基づく統治)を主張し続けた印象の強いガンヌーシーよりも、政教分離や女性の社会的活躍を支持してきたムールーの方が、有権者に受け入れられやすいと判断した結果と思われる。
他方、有権者の大部分はこうした政界での権力闘争を冷めた目で見ている。政治家や政治過程全般への不信感から、近年は投票率の低下が著しい。選挙運動ではいずれの候補者も社会経済開発や汚職対策の推進を訴えると思われるが、国民に対していかに政争から離れたクリーンな政治家であるかをアピールできるかも重要になるだろう。
*関連情報として下記もご参照ください。
・「チュニジア:シブシー大統領の死去、大統領選挙の前倒し」『中東かわら版』No.69
・立候補者リストにあるナージー・ジャルール氏は、2019年6月5日、当会主催講演会で「最近の中東・マグレブ情勢――チュニジアの視点から」との演題でお話いただきました。
(研究員 金谷 美紗)
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