中東かわら版

№79 イエメン:南部移行評議会がアデンを制圧

 2019年8月10日、「南部移行評議会」はアデンの大統領宮殿を制圧したと発表した。また、同派はこの他に軍事基地3カ所も制圧した。同派は、2017年5月にハーディー前大統領派から離反する形で発足し、8月7日ごろからアデンで同前大統領派の部隊と交戦していた。なお、大統領宮殿を警備していた「治安ベルト部隊」(注:UAEが編成した民兵部隊)は、同宮殿を戦うことなく「南イエメン移行評議会」に引き渡した模様である。

 サウジが率いる連合軍はアデンの情勢の展開を受け、11日に「南イエメン移行評議会」の拠点を空爆するとともに、同派に対し奪取した拠点から直ちに撤退するよう呼びかける声明を発表した。一方、12日に「南部移行評議会」のズバイディー議長がアデンにおける停戦遵守と、事態打開のための緊急協議に参加する意向を表明した。また、同日、アブダビのムハンマド皇太子がサウジのムハンマド皇太子と会談し、「南部移行評議会」に危機の打開のための対話を呼びかけた。

 

評価

 「南部移行評議会」は、サウジが率いる連合軍に同調しつつも、2018年にもハーディー前大統領派と交戦したことがあり、イエメン紛争において独自の政治・軍事主体として振舞ってきた。同派は今般の交戦を、自派を抹殺するための挑発に対する自衛行為と主張しており、事態の背景に同派とハーディー前大統領派との対立の激化があることをうかがわせている。また、「南部移行評議会」については、UAEの支援を受けているとみなす報道もある。

 イエメン紛争については、2019年7月にサウジが率いる連合軍の主要参加国であるUAEが部隊の一部を撤退させるなど、連合軍側の足並みの乱れが目立つ。今般の交戦についても、「南部移行評議会」への対応でサウジとUAEとの齟齬が見られる。両国は12日に戦列を一つにする同盟国としての立場を確認したが、各々が異なる意図や目的でイエメン紛争に介入していることは今や明白である。また、「南部移行評議会」がハーディー前大統領派の臨時首都であるアデンの重要施設を奪取したことにより、ハーディー前大統領派の弱体が改めて示された。今般の事態は、イエメン紛争が「正統政府対反乱勢力」のような単純な2項対立ではないことを改めて示すとともに、紛争当事者としての南部独立派の重要性を確認するものとなろう。

 

【参考情報】

イエメン:アデンで新政治勢力が発足」 中東かわら版2017年29号

(主席研究員 髙岡 豊)

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