中東かわら版

№75 クウェイト:国外追放した同胞団細胞による爆破事件

 2019年8月4日、カイロ中心部で爆弾を積んだ車両が爆発し、20名が死亡、47名が負傷した。エジプト政府は本事件を「テロ」と断定し、ムスリム同胞団の関係団体「ハサム運動」(エジプト武装運動)が関与したと見て捜査を開始した(ただし、ハサム運動は本事件への関与を否定し、自分たちの標的は政府要人だとの声明を8月5日付で発出した。加えて、後述するムルシー元大統領への弔意を表明したものの、同運動がムスリム同胞団の関係団体である証拠はない)。しかし7日、エジプト当局は、最近クウェイトを追放されたムスリム同胞団の「クウェイト細胞」が本事件に関与しており、首謀者はアブー・バクル・アーティフ・ファイユーミー(元自由公正党メンバー)だと発表した。現時点で、本事件に関するクウェイト側の公式な説明は見らない。

 

評価

 1950~60年代、エジプトから多くのムスリム同胞団メンバーが亡命したGCC諸国の中でも、1947年に支部が設立されたクウェイトは、具体的な支援を継続してきたカタルに次ぐ、同胞団メンバーの活動拠点と言えた。今日でも、サウジやUAEが同胞団を「テロ組織」に指定する中、クウェイトでは同胞団の活動が禁止されていない。

 他方、クウェイトは、2017年1月に、エジプトとの間で犯罪者引き渡し条約を結んでいる。最近では、2019年7月12日、国内在住のムスリム同胞団メンバーのエジプト人8名が逮捕され、エジプトに送還された。同胞団メンバーにとって比較的安全と言われてきたクウェイトだが、彼らを取り巻く状況が、今後ますます厳しいものに変化しそうだ。

 エジプト国内における同胞団の凋落は、2019年6月のムルシー元大統領の死亡後の状況を見ても明らかである。一方、本事件のような、エジプト国外での個々の動向に対する警戒は依然として強い。GCC諸国の中では、現在のリビア・スーダン情勢に関する外交政策に同胞団への警戒を反映させる等(反同胞団勢力への支援)、UAEにこの傾向が顕著である。同胞団自体が影響力を発揮することはなくなっが、同胞団への警戒が域内の政治動向を左右・決定する事態は当面続くと思われる。

 

【参考】

「エジプト:ムルシー元大統領の死去」『中東かわら版』No.47

(研究員 高尾 賢一郎)

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