№76 トルコ:シリア北部での安全地帯設置実現に向け米国と合意
2019年8月7日、トルコ国防省は、トルコと米国間でシリア北部での安全地帯策定実現のため、共同で作戦センターを設置することに合意したと発表した。5日から7日まで行われた交渉において、同地域でのトルコの軍事介入を回避するため、安全地帯設置に向けた具体的な取り組みとして、二国間で管理・運営する「共同作戦センター」をトルコ国内に設置すること等について話し合いがなされた。この安全地帯は「平和の回廊」と名付けられ、トルコをはじめ国外にいるシリア難民が無事に帰還できるようにすることも視野に入れている。フルシ・アカル国防相は、『アナトリア通信』に対し、今回の交渉は軍事介入回避に向け「前向きな」ものだったと述べた。
今後、安全地帯をどこに設置するのか等について、二国間で詰めの交渉が行われる。
安全地帯設置に関し、トルコ・米国間で合意した主な内容は以下の通り。
(1) トルコの安全保障上の懸念に対処するため迅速に実施する
(2) 可能な限り早急にトルコに「共同運営センター」を設立し、安全地帯設置を共同で
調整・管理する
(3) 安全地帯が「平和の回廊」となり、シリア人が自国に戻るための追加措置を講じる
評価
シリア北部では、イスラーム過激派を中心としたシリア反政府勢力と、クルド系のクルド人民防衛隊(YPG)、アサド政権軍(およびアサド政権を支持するロシア軍)との間で戦闘が続いている。
トルコは、テロ組織と認定し長年敵対関係にある、クルディスタン労働者党(PKK)の兄弟組織(トルコは同一組織とみなす)である、クルド人民防衛隊(YPG)が、シリア北部で勢力を拡大していること、その背後に米国の支援があることに非常に苛立っている。ここ最近で、トルコ軍はシリアとの国境近くに軍を集結させ、シリア内のYPG拠点を攻撃する姿勢をみせている。トルコはYPGに対峙する一方で、反政府勢力を支援しておりアサド政権軍とも敵対している。トルコ軍がシリアに侵攻すれば、YPGのみならず政権軍との大規模な戦闘になる可能性があり、シリア情勢は緊迫している。
他方、米国にとっても、「イスラーム国」掃討作戦で最前線に立ち、壊滅に追い込んだ「功労者」であるYPGを見捨てることはできず、戦闘回避に向けトルコの説得に必死だったとみられる。
米国やNATOからの反発を受けることを承知で、トルコがロシアからS-400の導入に踏み切ったのにも、トルコの安全保障上脅威となるクルド問題があるからに他ならない。
安全地帯設置の実現に向けて、今後もトルコ・米国間での話し合いは継続されるが、それを「どこからどこまで」とするのかについては二国間で隔たりがあり、楽観視はできないだろう。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「トルコ:ロシア製ミサイル防衛システムS-400の納入開始」『中東かわら版』No.65
(研究員 金子 真夕)
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