№73 アルジェリア:国民対話委員会の発足と難航
2019年7月25日、ベンサーリフ暫定国家元首は国民対話委員会のメンバーを発表した。当初は6名だったが、28日に抗議デモ参加者の代表として1名が追加され、計7名となった。
- カリーム・ユーニス:元人民議会議長
- ファティーハ・ベン・アブー:憲法学教授、女性
- スマイル(イスマーイール)・ラルマース:アルジェリア全国輸出評議会会長
- ブージーディー・ラズハーリー:元国民議会(上院)議員、憲法学教授
- イッズッディーン・ベン・イーサー:大学教授、活動家
- アブドゥルワッハーブ・ベン・ジャルール:教職員組合活動家
- ムハンマド・ヤーシーン・ブーフニーファル:抗議デモ参加者代表
- 大統領選挙を透明かつ公正に実施し、国民の意思が反映された選挙とするべく、選挙実施の法的・手続き的基盤を整える。
- 国民対話委員会を中心に、政党・市民社会・有識者・抗議デモ参加者の代表が対話に参加し、選挙の実施方法について提言をまとめる。最終提言は大統領府に送付され、国家機関は提言内容を遵守しなければならない。
- 軍を含む国家機関は対話に参加せず、対話を技術面でのみ支える。
国民対話委員会のユーニス調整役は、2月から続いている抗議デモにおいてブーテフリカ時代からの政治家・高官の政界からの一掃が要求されていることを重視し、国にデモ参加者の要求に応じることを求めていた。対話には、さらに23人の著名な活動家、野党政治家、有識者に参加の招待が送られたが、一部の者は、デモ参加者の要求が受け入れらていないことを理由に、対話参加を拒否した。
そのような中、31日に、実質的な最高意思決定者であるガーイド・サーリフ参謀総長兼副国防相は、大統領選挙を一刻も早く実施する必要があることを強調し、国民対話の実施に前提条件(現体制の政治家・高官の一掃)をつけることは受け付けないと述べた。この発言後、国民対話委員会のラルマース氏は抗議の意味を込めて対話委員を辞任した。ユーニス調整役も辞任を申し出たが、委員会に辞任を引き留められた。
評価
国民対話委員会は、発足1週間にしてすでに危機を迎えていると言わざるを得ない。ガーイド・サーリフは、新政権への移行過程に民意を反映することでポスト・ブーテフリカ時代の自らの統治に正当性を持たせたい思惑から、国民対話の実施を決定した。しかし、抗議デモ参加者は、現政権関係者の一掃という、体制側が全く受け入れられない要求を対話開始の前提条件として突き付けており、両者には妥協の余地がないように見える。
さらに、国民対話に「軍を含む国家機関は参加しない」はずであるにもかかわらず、早くもガーイド・サーリフが介入し、対話の継続が危ぶまれる状態となっている。しかし、軍が対話に関与することは十分に予期されていたことではある。
今後、現政権関係者の一掃という抗議デモ側の要求を無視して国民対話が進む場合、政治的な分裂が著しくなるおそれがある。大統領選挙の早期実施によって権力基盤を維持したいガーイド・サーリフおよび軍と体制派の政党、そして、これら体制側の権力維持行動に対抗する野党と抗議デモ運動が、妥協を見い出せずにいる状態が続けば、国民対話は人々の支持を失い形骸化するだろう。治安機構による抗議デモ運動に対する実力行使の可能性も否定できない。国民対話委員会の発足直後に、早くも国民対話の正当性が失われつつある。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東トピックス>(会員限定)
- 「アルジェリア:国民対話の実施へ」(2019年5月)
- 「アルジェリア:新政権移行に向けた国民対話の開始」(2019年7月号)
(研究員 金谷 美紗)
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