中東かわら版

№72 バハレーン:米国の有志連合結成案への協力と各国の反応

 2019年7月31日、バハレーン外務省は、英米をはじめとする複数の国の関係者を首都マナーマに招き、ペルシャ湾岸における船舶航行の安全確保に向けた軍事同盟の結成について協議したと発表した。これは、7月9日のダンフォード米統合参謀本部議長による、ペルシャ湾のホルムズ海峡と紅海のバーブ・ル・マンダブ海峡の船舶航行の安全確保を目的とした米国主導の有志連合結成案に沿ったものと思われる。目下、同案についての主要各国の対応は以下の通り。

国名

主な動き

バハレーン

有志連合結成の準備に積極的。冒頭の会議の他、海上安全保障会議等を主催予定(『中東かわら版』No.64)。

サウジ

イエメンと戦争中であるため、有志連合結成によるメリットが大きい。結成に向けた横並びの動きはないが、7月19日に16年ぶりの米軍駐留を決定(『中東かわら版』No.68

UAE

具体的な行動を起こしていないが、有志連合結成を支持する旨表明。

英国

自国籍の船舶拿捕を受けて(『中東かわら版』No.67)、海軍に民間商船の護衛を命じるも、英仏主導で護衛軍を結成することを検討。

フランス

米国と政策路線が異なることを表明し、有志連合への参加に慎重。

ドイツ

域内の緊張を高めたくないとの理由で、有志連合に参加しないと表明。

デンマーク、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン等

EU主導の船舶護衛体制の構築に関心はあるが、有志連合への参加には慎重。

韓国

有志連合への参加を前向きに検討していると発表。

インド

有志連合に参加しない意向である旨が報じられる。

日本

冒頭の会議に在バハレーン大使館員3名が参加(自衛隊の連絡官含む)。イランとの関係維持を前提に、米国との協働には慎重。

 

評価

 以上の通り、米国主導の有志連合結成案への賛同を表明し、何らかの協力を行っている国は限られている。この背景として、欧州諸国の反応に見られるように、イランの脅威やホルムズ海峡の重要性は認識しているものの、米国主導のスキームへの警戒、またイランを刺激することの不安が勝った様子がうかがえる。実際、7月29日にイラン政府は、共同軍事演習などを通して、ロシアとの軍事協力関係を強める予定だと発表する等、有志連合案以降、域内の緊張範囲が拡大し、「当事国」の数も増えている。近々、米国が英国やフランスをはじめとする欧州諸国とロンドンにおいて協議するとの報道もあるが、米国主導の有志連合が、当初掲げた「60カ国以上」の参加で結成される可能性は、現時点で非常に低いと言えるだろう。サウジやUAEといった、本来なら同案により協力的であるべき一部のGCC諸国が活発な動きを見せないのも、有志連合結成が現実的ではないと考えているからかもしれない。

(研究員 高尾 賢一郎)

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