中東かわら版

№71 イラン:米国がザリーフ外相を制裁対象に指定

 2019年7月31日、米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、イランのザリーフ外相を新たに制裁対象に指定した。同発表によれば、ザリーフ外相はイランの広告塔の役目を担っていることから、制裁対象に指定された。この制裁により、米国内、及び、米国人の所有・管理下にある全てのザリーフ外相の資産が凍結されることとなる。

 これを受けて、ザリーフ外相はツイッターで、「私はイラン国外に如何なる資産も保有していないので、(今回の制裁は、)私と家族に何の影響も及ぼさない」としつつ、「私を米国にとっての大きな脅威だと考えてくれているようでどうもありがとう」と反応した。

 米国は、4月8日にイスラーム革命防衛隊(IRGC)を外国テロ組織(FTO)に指定した(『中東かわら版』No.9)他、6月24日に最高指導者のハーメネイー師及び最高指導者事務所を新たな制裁対象に指定していた(『中東かわら版』No.53)。

評価

 本年6月24日、米国はザリーフ外相を制裁対象に指定する計画を公表したものの、制裁の発動は保留していた。これについて、米国はイランとの対話の扉を閉ざしたくないからではないか、とする見方もあった(例えば、7月12日付『ロイター』を参照)。また、これまでトランプ大統領、及び、ポンペオ米国務長官も、前提条件なしにイランと対話をする準備がある、との立場を公に示していた。しかし、今回、ザリーフ外相に対して制裁対象の指定に踏み切ったことにより、米国はイランと外交チャネルを通じた対話をする意思はないとのメッセージを送っていると受け止めることができ、両国間の関係修復は一層望みにくい情勢となった。

 7月中旬、ザリーフ外相が国連経済社会理事会の年次会合に出席するためニューヨークを訪問しており、その時点では、米国務省はザリーフ外相に入国ビザの発給を認めるなど、あからさまな敵対姿勢は見せていなかった。また、ザリーフ外相はニューヨーク滞在中の7月18日、ランド・ポール上院議員(共和党)と秘密裏に面会したとの報道もあり、イランは水面下で米国との関係改善を模索していた可能性もある。このような状況で発表された今回の制裁は、両国間の対話をさらに困難にすると考えられる。

 その一方で、イラン経済に打撃を与える制裁は昨年8月と11月に発動済みであり、本年5月2日には原油禁輸の適用除外措置が完全撤廃された。ハーネメイー最高指導者も制裁対象に指定され、IRGCもFTOに指定されている現在、今回のザリーフ外相を制裁対象に指定することによるイラン経済への実質的な打撃はないともいえる。とはいえ、やはり米国の一貫しない対イラン政策は、イラン側の姿勢の更なる硬化を招いていると言わざるを得ない。また、ホルムズ海峡等で緊急事態が発生した際にも、対話を通じた問題解決が更に困難になる恐れがある。

 なお、イラン国内では、国営通信の『IRNA』がザリーフ外相のツイートを大きく報じ、同外相が皮肉を交えながら米国の圧力に対峙する様子を伝えている。米国デンバー大学で修士号(国際関係学)、及び、博士号(国際法)を修め、2002年~2007年まで国連代表部で大使を務めた豊富な経験を活かし、ザリーフ外相は包括的共同行動計画(JCPOA)を締結に導いた立役者の一人となった。しかし、JCPOAで当初約束されていた経済制裁の解除を実現できなかったことから、国内では保守強硬派の批判に晒されてきた。今回の制裁対象の指定により、米国寄りとの印象が払拭されることは、そうした批判をかわす材料として働く可能性もある。その点では、図らずも、今回の動きが、ザリーフ外相の国内における立場を好転させる展開もあり得る。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:米国がイスラーム革命防衛隊をテロ組織に指定」『中東かわら版』No.9

・「イラン:米国が石油化学セクターに対する制裁を発動」『中東かわら版』No.43

・「イラン:米国が最高指導者らを制裁対象に指定」『中東かわら版』No.53

(研究員 青木 健太)

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