中東かわら版

№66 イラン:革命防衛隊による外国籍タンカーの拿捕

 革命防衛隊寄りの『タスニーム通信』は、7月18日、ホルムズ海峡に位置するラーラク島南部付近において、100万リットル(注:バレルではない)の石油を密輸する外国籍タンカー1隻を拿捕したと報道した。同報道によれば、12人の乗組員を乗せたこのタンカーはイランの木造小型船によって積み込まれた石油を、別の外国の船に積み替えしようとしていた。

 同日、国営放送『プレスTV』は、船体に「RIAH」及び「PANAMA」と書かれた小ぶりのタンカーを革命防衛隊の巡視艇が取り囲む様子を収めた動画を公開した。

評価

 UAEの港を発った小型の石油タンカーが、7月13日夜から消息不明になっていたことについては、米国が「イランが拿捕したに違いない」として疑念を頂いていた(7月17日付『AP通信』)。この消息不明であった石油タンカーの船名は「RIAH」であり、今回革命防衛隊が拿捕したタンカーも同名であることから同じ船を指すと考えられる。7月4日にジブラルタル海峡で発生した英国海兵隊によるイラン船籍の石油タンカー拿捕事件に対し、ハーメネイー最高指導者が7月16日に「(イギリスは)仕返しがないと考えない方がよいだろう」と警告を発していたことから、イランによる何らかの報復行為について警戒されていた。しかしながら、今次事案は英国の権益、ないし、無人偵察機の撃墜事件などを巡って対立する米国の権益とも直接的には関係がないように見受けられる。また、イラン産原油の密輸行為を取り締まる行為自体はイランの官憲にとってみれば国・国民を守るための当然の権利である。このことから、両事案を結びつけて考えることについては慎重にし、先ずは各々の主張の正確な理解に努めるべきであろう。

 なお、UAE船籍であるとの報道も散見されるが、UAE国営通信『WAM』は「石油タンカー『RIAH』はUAEが所有するものでもなければ、運用するものでもない」としてこれを否定するとともに、「関係諸国と緊密に状況をモニターしている」としている。

 その一方で、7月18日、トランプ大統領は米強襲揚陸艦「ボクサー」に接近したイランの無人偵察機を撃墜したとホワイトハウスで発言しており、米国国防総省も「自衛的措置」をとったとしてこれを認めている(注:但し無人偵察機が誰のものかについては言明していない)。現時点では、ザリーフ外相は記者団に対して「(イランの)無人偵察機が撃墜されたとの情報はまだない」と述べるに留まっており、状況は流動的である。ペルシア湾の緊張が高まる中、各アクターの思惑を反映したプロパガンダや流言飛語が飛び交うことが予想されるが、特に一つの「ボタンの掛け違い」が偶発的な衝突につながりかねない昨今の状況においては、冷静に事実関係を見極める必要があるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「UAE:フジャイラ沖で商船・タンカーに「破壊行為」『中東かわら版』No.30

・「UAE:フジャイラ沖で商船・タンカーに「破壊行為」#2」『中東かわら版』No.31

・「イラン:ホルムズ海峡付近でのタンカー攻撃事件」『中東かわら版』No.45

・「イラン:無人偵察機の撃墜事件」『中東かわら版』No.50

<イスラーム過激派モニター>(会員限定)

・「オマーン湾での船舶攻撃事件」(2019年4号)

(研究員 青木 健太)

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