№67 イラン:革命防衛隊による外国籍タンカーの拿捕#2
- 2019イラン湾岸・アラビア半島地域その他
- 公開日:2019/07/22
7月19日、イラン・イスラーム革命防衛隊は、英国船籍(スウェーデンのステナ・バルク社所有)の石油タンカーStena Impero(2018年建造、49,683載貨重量トン)を拿捕した。イラン国営通信『IRNA』によれば、同タンカーは「国際海洋法を遵守しなかった」との理由で、ホルモズガーン州港湾海事局の要請を受けて拿捕された。同日、保守強硬派の『ファールス通信』は、革命防衛隊の巡視艇がStena Imperoを取り囲み、レンジャー部隊が甲板に降り立つ様子を収めた動画を公開した。
また、同日、リベリア船籍(英国のノーバルク海運社所有)の石油タンカーMesdar(2007年建造、315,000載貨重量トン)も革命防衛隊に拿捕されたとの報道も見られたが、保守強硬派の『タスニーム通信』はこれを否定した。
評価
イラン当局側は、石油タンカーStena Imperoが追跡装置をオフにした上、革命防衛隊による度重なる警告にも拘わらず応じなかったとして、国連海洋法条約等で定められる「無害通航権(innocent passage)」を侵害したとの理由で拿捕に至った模様である(7月19日付『メフル通信』(イスラーム宣伝庁による通信社))。つまり、イラン当局としては、沿岸国であるイランの平和、秩序、安全をStena Imperoが害したと判断して拿捕に至ったと主張している。一方で、公開された動画では、革命防衛隊の複数の巡視艇が取り囲み、ヘリコプターからレンジャー部隊が制圧に向かう様子が克明に抑えられており、かなり周到な事前計画の下に実行された様子が窺われる。このため、今回の拿捕は計画的且つ政治的なものであり、イランが英国船籍のタンカーを狙って実行したものである可能性がある。
今回の事件の発端として、7月4日にジブラルタル海峡において、イランが所有する石油タンカーGrace 1(注:パナマ船籍で登録されているが、パナマ港湾当局は今年5月29日で除籍されたと発表。300,579載貨重量トン。)が英国海兵隊によって拿捕されたことが挙げられる。ジブラルタル当局は、Grace 1がEUの制裁に違反してシリアへ原油を輸送していた疑いがあるとみて、英国海兵隊と共にこれを拿捕し、未だに解放していない。表向きの理由はともあれ、イラン側は、この事件を「最大限の圧力」政策を続けるトランプ米政権に英国が追従し、イランを狙い撃ちにしたものだと受け止めていると考えられる。実際、ザリーフ外相はツイッターで「英国は、米国の経済テロの付属物になることを止めるべきだ」として英国を揶揄している。一方、英国外務・英連邦省は、EUの制裁に反して運搬されていた原油を法に則って拿捕したに過ぎないとの立場を示しており、双方の主張は真っ向から対立している。
イラン側と英国側の主張に溝が見られる。イランは英国が先に挑発したと考えており、例えば英国がGrace 1を早期に解放するなどの何らかの前向きなシグナルを出さない限り、イラン側が態度を軟化させる可能性は低いだろう。
なお、7月4日以降、ホルムズ海峡で発生したタンカー拿捕に関わる事実関係は以下の通りである。
日付 |
出来事 |
7月4日 |
ジブラルタル海峡で、イランの石油タンカーGrace 1が英国海兵隊によって拿捕。 |
7月11日 |
米政府関係者は、革命防衛隊の巡視艇が英国船籍のタンカーBritish Heritageに近づき拿捕を試みたと主張。革命防衛隊はこれを否定。 |
7月18日 |
革命防衛隊が外国籍タンカーRIAHをイラン産原油の密輸の容疑で拿捕と発表(7月14日発生、詳細は『中東かわら版』No.66)。 |
7月19日 |
革命防衛隊が英国船籍の石油タンカーStena Imperoを拿捕。 |
7月19日 |
リベリア船籍の石油タンカーMesdarが革命防衛隊に拿捕されたとの報道がされたが、同隊はこれを否定。 |
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「UAE:フジャイラ沖で商船・タンカーに「破壊行為」『中東かわら版』No.30
・「UAE:フジャイラ沖で商船・タンカーに「破壊行為」#2」『中東かわら版』No.31
・「イラン:ホルムズ海峡付近でのタンカー攻撃事件」『中東かわら版』No.45
・「イラン:無人偵察機の撃墜事件」『中東かわら版』No.50
・「イラン:革命防衛隊による外国籍タンカーの拿捕」『中東かわら版』No.66
<イスラーム過激派モニター>(会員限定)
・「オマーン湾での船舶攻撃事件」(2019年4号)
(研究員 青木 健太)
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