中東かわら版

№65 トルコ:ロシア製ミサイル防衛システムS-400の納入開始

 2019年7月12日からロシア製のミサイル防衛システムS-400の納入が開始された。同システム構築のための部品は、ロシアから空輸で順次搬送される。

 これを受け、12日、米国上院外交委員会および同軍事委員会は、トランプ大統領に対しトルコへの経済制裁を発動するよう促す声明を共同で発出した。同声明では、経済制裁発動に加え、トルコが米国から購入予定のF-35ステルス戦闘機の引き渡し拒否を求めるとともに、エルドアン大統領とプーチン大統領の協力関係を危険視する見方も示された。

 トランプ大統領は16日の閣議で、トルコのS-400導入はオバマ政権の責任によるものと発言したものの、外交・軍事両委員会が求めている経済制裁発動については明言を避けた。しかし、米国防総省は事態を看過できないものとみなし、17日、F-35の多国間共同開発計画からトルコを排除することを発表した。

 エルドアン大統領は、14日の会合でS-400の導入に関し、トルコは「戦争準備ではなく、平和と国家の安全を保障しようとしている」ことを強調したうえで、S-400は、2020年4月頃までには配備が完了すると述べた。また、北大西洋条約機構(NATO)や米国が懸念している、安全保障上の問題については、S-400はNATOのシステムに統合されず、NATOの脅威にはならないことも強調した。

 

評価

 米国政府、特に軍関係者は、トルコがS-400を導入することで、F35ステルス戦闘機の機密情報がロシア側に漏れることを強く警戒している。トルコが加盟するNATOもまた、ロシアへのNATOの機密情報漏洩を危惧しており、両者からのトルコに対する風当たりは強い。だが、トルコからしてみれば、米国のパトリオットミサイルの購入を希望していたにも関わらず、売却を渋ったのは米国側(オバマ政権)であるという思いは強い。トランプ大統領もG20で行われた首脳会談および、上述の閣議でも、このことについては繰り返し言及している。前政権のことをことごとく否定するのはトランプ大統領の常套手段ではあるものの、トルコがS-400を導入する要因の一つとなった点に関し、米大統領が言及したことは、トルコ側も一定の理解が示せるのではないだろうか。だが、米国と何かあるたびにF-35の供与を引き合いに出されることにトルコは苛立ちを隠していない。今後、トルコへの締め付けを強化すれば一層ロシアに接近することも考えられる。

 他方、トランプ大統領も自身の人種差別発言で、米国民の反発を買っており、今は余計なトラブルを避け、国内問題に集中したいとの考えがあるのかもしれない。だが、議会やペンタゴン内で、トルコへの不信感は根深く、トランプ大統領に、トルコに対し何らかのペナルティを与えるよう繰り返し要求する可能性がある。また、来年大統領選挙を控える同大統領も支持率に影響が出れば、選挙に向け、経済制裁による締め付けといったトルコを追い込むような強気な外交を展開するということも十分に考えられるだろう。

 

 

【参考情報】

*7月22日の中東連続講演会メルジャン・トルコ大使「トルコの外交政策」において、トルコの外交政策についてもお話を伺う予定です。

(研究員 金子 真夕)

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