中東かわら版

№62 カタル:タミーム首長の訪米

 2019年7月8日、タミーム首長が米国を訪問し、翌9日にホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した。これに関するカタル国内の報道ぶり概要は以下のとおり。

1 トランプ大統領は、中東におけるカタルの役割について、ウダイド空軍基地の存在に代表される戦略的重要性を強調した。 

2 タミーム首長は、米国との関係について、カタルによるインフラ分野を中心とした投資、また総額1,850億米ドルを超える貿易額に見られる、経済関係を強調した。

3 両首脳の立ち合いの下、以下の了解覚書が交わされた。

(1)Qatar PetroleumとChevron Phillips Chemicalによる、メキシコ湾岸における石油化学コンビナートの開発に係るもの。

(2)Qatar AirwaysとGeneral Electric及びBoeingによる、ボーイング777貨物輸送機5機とガルフストリーム軍用機の購入に係るもの。

(3)その他、防衛システムに係るもの。 

4 タミーム首長は、トランプ大統領をカタルとウダイド空軍基地に招待する意向を伝えた。

 

評価

 タミーム首長の訪米は2018年4月以来となる。その後、今日に至るまで湾岸地域では米・イラン間の緊張が続いているが、今般の訪米は基本的に二国間関係の発展を趣旨としたものに思われる。とはいえ、トランプ大統領が強調したカタルの戦略的重要性は、湾岸地域の安全保障と無関係ではない。可能性が低いとは言え、仮に米国とイランが開戦した場合、サウジ・バハレーン・UAEといった協力国は、同時に標的となる可能性も高い。カタルのような、標的とされる可能性が低い協力国の存在は、対イラン関係に限らず、米国にとって安全な駐留地と言える。

 米国では、今次訪問に関する報道で、カタル・米国関係のさらなる改善を喧伝する向きが見られる。これはかつてカタルを「テロ支援国家」と非難したトランプ大統領が、タミーム首長との共同記者会見で、「カタルはテロ組織の撲滅に貢献している」と称賛したことを受けたものだろう。

 なお、依然としてカタルを「テロ支援国家」と非難し、断交中であるサウジ・UAE・バハレーンでは、カタル・米国の関係改善を好ましくないと思う立場からか、ほとんどのメディアが今次訪問を報じていない。

(研究員 高尾 賢一郎)

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