№58 アフガニスタン:カブール等での爆破事件の発生
2019年7月1日午前9時頃、首都カブールの第16区ポレ・マフムード・ハーンにある国防省兵站・工兵施設を狙った複合攻撃が発生した。ワヒードッラー・マーヤール保健省報道官は、この事件で1人が死亡、116人(内、子ども26人、女性6人)が負傷したと発表した(※同日付『ニューヨーク・タイムズ』は少なくとも40人が死亡したと報道したが、これは誤報と考えられる)。本攻撃は、国防省ゲート付近における車両積載型爆弾の爆破によって始まり、武装勢力(推定5人)による近くのビルの占拠・攻撃が続いた。ナスラト・ラヒーミー内務省報道官は、同日夕刻には全ての襲撃犯は射殺されたと述べた。現場の情勢が流動的であることから、今後も、死傷者数には変更が生じる可能性がある。
同日、ターリバーンは犯行を認める声明を発出し、カブール「行政機構」の国防省兵站・工兵施設に対するフィダーイー(自爆)攻撃を仕掛け甚大な被害をもたらしたと主張した。一方で、民間人の犠牲者が出たことを認めつつ、標的はあくまでも国防省であったと弁解した。
アフガニスタンでは、6月29日夜にも、南部カンダハール州マアルーフ郡庁舎に対して、爆弾を積載した高機動車(ハンビー)4台による自爆攻撃がターリバーンによって仕掛けられ、現地報道によれば独立選挙委員会職員8人及び国軍兵士が11人が死亡、26人が負傷した。
同じく29日深夜に、南東部パクティヤー州アフマダーバード郡で、ターリバーンによる国軍基地に対する攻撃があり、国軍兵士18人が死亡、17人が負傷したと報道された。
同日、アフガニスタン大統領府はターリバーンの犯行を「テロリスト」による攻撃だと強く非難した。また、パキスタン外務省も同様にこれを非難する声明を発出した。
評価
今回の一連の攻撃において、重要なポイントは以下の2点である。
第一に、今回の一連の攻撃を通じて、ターリバーンが軍事攻勢の手綱を緩めないとの意思を明確に示した点である。ターリバーンは、2019年4月12日に春季攻勢ファトフ作戦の開始を宣言し(『イスラーム過激派モニター』2019年1号)、彼らが「占領者」と見做す駐留外国軍、及び、その「傀儡」であるとするアフガニスタン政府の治安部隊に対する攻撃を仕掛けてきた。そうした中、6月29日、カタルで米国・ターリバーン間の第7回目となる和平に向けた協議が開始される中(『中東かわら版』No.56)、ターリバーンは、大規模で衆目を集める攻撃の標的をアフガニスタン政府国防省と定めて実行に移した。今回の一例だけをとってみても、同勢力が、今後の交渉において有利に機能し得る軍事攻勢という切り札を、最後まで手放さないことはほぼ確実と考えられる。このため、米国・ターリバーンの間で、米国が軍隊を撤収させる一方で、ターリバーンはテロ組織と関係を断絶しアフガニスタンをテロの温床としないという「取引」が仮に近く成立したとしても、これが同国の治安の改善につながると考えることには慎重となるべきである。むしろ、ターリバーンが、駐留米軍の完全撤退を受けて、更に影響力を拡大させる可能性すら視野にいれるべきであろう。
第二に、ターリバーンが実行した一連の攻撃によって、ターリバーンがこれらの軍事作戦を実行する高い能力を有していることが裏付けられたとも言える。映像を確認する限り、カブールで発生した事件で用いられた車両積載型爆弾には、かなり多くの爆薬が使われていた可能性が高い。検討すべき問題は、こうした材料を、彼らがどこから入手したのか、そして、どのように首都の核心部にまで持ち込むことができたのかという点である。入手経路に関して言えば、ターリバーンを背後から支援する勢力が存在することが類推される。こうした勢力が対ターリバーン姿勢を変化させない限り、どれだけ和平に向けた機運が盛り上がろうとも和平の実現は遠いと言わざるを得ない。また、ターリバーンが、爆破材料の持ち込みに成功したということは、ターリバーンがアフガニスタン国家治安部隊に内通者を持つなどして、かなり食い込んでいることも示唆している。
カンダハール州における攻撃で高機動車が用いられていることは、特に、地方ではターリバーン側に陥落した政府側の基地が少なくないことも表している。
7月中旬には、カタルで、ドイツとカタルの連携により、「アフガニスタン人同士の対話」が開催されるとの報道も見られる。また、現在のところ、9月28日にはアフガニスタンで大統領選挙の実施が予定されている。今後の政治・和平プロセスの進展に伴い、ターリバーンの硬軟使い分けた影響力拡大に警戒が必要となるであろう。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「カタル:米国とターリバーンの2019年3回目となる和平交渉開始」『中東かわら版』No.56
<イスラーム過激派モニター>(会員限定)
・「ターリバーンが2019年の攻勢開始を宣言」(「2019年1号)
(研究員 青木 健太)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/