中東かわら版

№57 イエメン:アメリカとイランとの緊張を受け、UAEが派兵部隊を削減

 2019年6月28日付『ロイター』は、アメリカとイランとの緊張激化を受け、UAEがイエメンに派遣した兵力・装備を撤収させているとして要旨以下の通り報じた。

  •  複数の西側外交筋は、アメリカとイランとの緊張激化が原因でUAEがイエメンにおける部隊を削減していると述べた。UAEは、サウジが率いる連合軍の主要な参加国である。UAEは、アデンとフダイダの部隊の一部を撤退させた。
  • 西側外交筋によると、UAE政府は部隊や装備を(イエメンに置くのではなく)自由に動かせる状態にしておきたいと考えている。これは、ホルムズ海峡周辺でのタンカー攻撃やアメリカ軍の無人機撃墜事件の後アメリカとイランとの緊張が高まっている状況に対応するためである。
  • UAEの高官は、「確かに部隊に若干の移動がある。しかし、それはイエメンからの再展開ではない。UAEは、(イエメンに介入する)連合軍への責任を完全に順守しており、イエメンを空白に捨て置くようなことはしない」と述べた。
  • イエメンに駐留しているUAE軍の数は不明である。一方、西側外交筋は、過去3週間でUAEが「多数の」部隊をイエメンから撤退させたと述べている。
  • UAE筋は部隊の動きとアメリカ・イラン間の緊張との関連について、2018年12月成立したフダイダ港での停戦合意との関連性の方が高いと述べた。

 評価

 UAEは、2015年3月にサウジなどとともにイエメン紛争に介入し、同国での軍事作戦に参加した。『the Military Balance 2019』は、UAEがイエメンに派遣している部隊の規模を、装甲車、攻撃ヘリ、対空ミサイルなどを含む3000人と推定している。サウジ・UAEなどによるイエメン介入は、同国などが「正当政府」とみなすハーディー前大統領派を支援し、2011年以来のイエメンでの政変を収拾するためのGCC提案(『中東かわら版』2011年No.141)などに沿った政治過程を再開するためであった。しかし、UAEには、フダイダをはじめとする紅海沿岸の港湾の掌握や、2018年にソコトラ島に進駐した件など、イエメンの政情の混乱を収拾することとは別の野心を疑われるような行動も見られる。また、現在のサウジなどど「アンサール・アッラー(俗称:フーシー派)」との戦闘は、イエメンにおけるサウジなどと「親イラン勢力」との抗争とみなされることもある。

 しかし、2015年の連合軍の介入以来、連合軍はイエメンの政治過程を再開させることも、「アンサール・アッラー」を屈服させることもできず、同国における社会・経済・人道状況の悪化が深刻化している。そうした中、UAEがアメリカ・イラン間の緊張激化を理由に部隊の一部を撤退させたのならば、イエメンにおける「親イラン勢力」との抗争に決着をつけることができないまま、イランとの正面での緊張激化に備えねばならない状況が生じたことを意味する。UAE自身にはアメリカ・イラン間の緊張の激化と緩和にさしたる影響力がないとしても、イエメン紛争を収束させられないまま自国の周辺での緊張に備えなくてはならないという状況は、自国の安全保障や地域の国際関係に対するUAE自身の展望・構想の欠如を浮き彫りにするものであろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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