中東かわら版

№56 カタル:米国とターリバーンの2019年3回目となる和平交渉開始

 2019年6月29日、カタルのドーハで、米国と「アフガニスタン・イスラーム首長国」(ターリバーン)による和平交渉が開始した。カタル国内のメディアがこれについて概要以下の通り報じている。

・今次交渉の議題は、米軍のアフガニスタンからの完全撤退、およびアフガニスタン領土を米国はじめ外国との戦争の土地として利用しないこと、これらを受けてのアフガニスタン内部での対話と交渉、以上を経た包括的な停戦に向けたプロセス形成である。

・開会にあたり、両者は、アフガニスタン市民の苦難を終結させること、双方の利益としてこれを迅速に実現することの重要性を確認した。 

・カタルは仲介役としての役割から両者の対話交渉を歓迎し、今次交渉を和平に向けた重要かつ具体的な進展として評価する。

 

評価

 ドーハでの米国・ターリバーンの和平交渉は、2013年6月にターリバーンが同市に事務所を開設して以来、今次交渉で7回目となる。2019年になってからはすでに3回目であり、この背景には、同1月にトランプ米大統領が、アフガニスタン駐留米軍の完全撤退に向けて米国・ターリバーン間で協議がなされたと発表したことがある。直前の6月25日にはポンペオ米国務長官がカーブルを電撃訪問し、米軍撤退を9月までに完了させたい意向をアフガニスタン政府に伝えたとも報じられた。2020年の大統領選挙に向けて、オバマ前政権が公約に掲げながら頓挫したアフガニスタンからの米軍完全撤退を実現したいトランプ大統領、2019年9月の大統領選に向けて再選の材料が欲しいガニー・アフガニスタン大統領、米軍撤退交渉に関与してプレゼンスを示したいターリバーンの思惑が重なった状況が、この推進力になっていると思われる。

 一方のカタルは、米国・ターリバーン間の交渉の場を提供しつつ、双方のいずれかに賞賛あるいは非難の声を上げない中立的立場を今次交渉においても維持している。域内の中軸であるサウジアラビアと断交状態にありながら、同国がイニシアティブをとった先般のGCC・アラブ連盟サミットの最終声明に拒否するといった強気な姿勢(『中東かわら版』No.41)を続けるカタルの独自外交の背景として、米国の安全保障政策における利害調整のような、域外でのプレゼンス発揮は大きな意味を持っていると思われる。もちろん、米軍の完全撤退が直ちにアフガニスタンの安定につながるわけではなく、このためのより重要なプロセスとしては、アフガニスタン政府との交渉を拒んできたターリバーンがその態度を軟化させる条件・環境を整えることが不可欠となる。こうした仲介役としての役割を米国に与えることができれば、カタルの「仲介役の仲介役」としての役割が国際的に大きいものと評価され、同国の思惑もまさにそこにあると予想される。

 

【参考】

カタル外交については、7月3日に以下の講演がもたれます。会員限定ではありますが、関心あられる方のご参集をお待ち申しております。詳細はリンク先の弊会ウェブページをご覧ください。

会員限定:7.3 中東情勢講演会(大塚 聖一・駐カタール大使「カタール外交から見た中東情勢」)

(研究員 高尾 賢一郎)

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