中東かわら版

№55 トルコ:G20大阪サミットでトランプ大統領と会談

 2019年6月28日、29日の2日にわたってG20大阪サミットが開催された。同サミット参加のため訪日中のエルドアン大統領は、米国のトランプ大統領と首脳会談を行い、安全保障問題等について話し合った。この中でエルドアン大統領は、ロシア製地対空ミサイルS-400の導入に関し、既にトルコへの引き渡しの段階を迎えており、今からこれを撤回することは困難であると述べた。

 これに対しトランプ大統領は、トルコのS-400導入に懸念を表明しつつ、オバマ政権時の2013年に、トルコに対し戦闘機(F35)や武器の売却に消極的だった経緯が、二国間関係を複雑化させていると語り、米国は様々な解決方法を検討していると述べた。トランプ大統領は、さらに二国間の貿易額についても言及し、近いうちに、750億ドルから1000億ドル超に増加するだろうとした。時期については未定としながら、2019年中にトルコを訪問する予定であることも明かした。

 首脳会談終了から数時間後、トランプ大統領は、トルコのS-400導入を契機とした米国の経済制裁は行わないと述べた。

 エルドアン大統領は、トランプ大統領以外にも、ロシア、フランス、インド、ドイツ、イギリス、スペイン、インドネシアの各首脳と会談した。ジャマール・カショギ事件以降、関係が悪化している、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子との会談は実施されなかった。

 

評価

 シリア情勢や、米国人牧師の身柄引き渡し問題をめぐり、トルコ・米国関係は、ここ一年かつてないほど悪化していたが、報道されている写真や映像を見る限り、会談に臨んだ両首脳の表情は比較的穏やかだった。エルドアン大統領にとっては、経済の低迷、イスタンブル市長選での敗北など、求心力の低下が指摘されている中でのサミット参加だった。もし、トランプ大統領との会談が失敗し、米国による経済制裁発動となれば、トルコ経済はさらなる打撃を受け、自身の支持率にも関わることとなりかねず、米国から譲歩を引き出したかったはずである。

 他方、米国も、トルコがロシアに接近することに対する危機感や、イラン核合意(JCPOA)離脱後、同国への圧力を強化しているなかで、トルコとのこれ以上の関係悪化を避けたかったとみられる。米国は、イランへの制裁に同調するよう各国に強く要求しているが、唯一、強固に反対し続けているトルコを味方に引き入れておきたい狙いもあるだろう。トルコ側が制裁を避けるべく譲歩した点としては、トランプ大統領が言及しているとおり、二国間の貿易量を増やすことが考えられる。

 トランプ大統領との会談は、ひとまず成功だった。だが、来年大統領選挙を控える同大統領が、一層、自国優先の政策に重点を置くことが予想され、トルコ・米国関係がこのまま安定するかは不透明だろう。

(研究員 金子 真夕)

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