中東かわら版

№54 UAE:アブドッラー外相による民間商船「破壊行為」への言及

2019年6月26日、UAEのアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相が、訪問中のモスクワで行ったロシアのセルゲイ・ラブロフ外相との共同記者会見で、5月に起きた民間商船への「破壊行為」(『中東かわら版』No.30, 31)に言及したところ、要旨以下の通り汎アラブ紙及びUAE国内紙等で報じられた。

・「破壊行為」が大量の情報と専門性の高い技術を備えた主体によって実施されたことはほぼ間違いない。ただし、UAEは特定の国を犯人として名指しすることはしない。なぜなら犯人と名指しするためには、明瞭で、科学的根拠を持った証拠が必要だからである。

・同じ「破壊行為」の被害国であるサウジアラビア・ノルウェーとは、航行安全の保障について協議している。UAEが求めるのは地域の安定であり、さらなる不安定化や緊張の高まりではない。

・イランをめぐる問題については、イラン核合意(JCPOA)のために地域諸国を巻き込むことが重要だ。

 

評価

 実行主体不明ながら、「破壊行為」はサウジアラビアとその友好国がイランを犯人と暗に名指しし、さらに別のタンカー襲撃事件も発生したことで(イスラーム過激派モニター・2019年4号(会員限定)『オマーン湾での船舶攻撃事件』)、域内の緊張が一気に高まった。このタイミングで、サウジの軍事・安全保障面では最大の域内パートナーと言えるUAEが、イランを実行主体とするには証拠がないとの見解を示し、サウジとの立場の違いをアピールした点は重要である。これがロシア訪問中、ラブロフ外相との共同会見でなされた点も興味深い。ラブロフ外相は、ロシアがアラブ諸国に域内緊張の鎮静化に努めるよう呼びかけていることを強調し、イラン問題をめぐって米国・サウジが急進派としてプレゼンスを示している状況に対して、UAEとの連携で穏健派としての立場をアピールすることを狙ったとも考えられる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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