中東かわら版

№53 イラン:米国が最高指導者らを制裁対象に指定

 2019年6月24日、トランプ米大統領は最高指導者のハーメネイー師及び最高指導者事務所を新たな制裁対象(米国内における保有資産の凍結、米企業との取引禁止など)とする大統領令に署名した。これに先駆けた記者会見において、同大統領は、今般の制裁がイランにとって大打撃になるとした上で、イランに対し、核兵器を持たず、テロを支援しないことを要求すると述べた。また、同日、米国財務省外貨管理局(OFAC)は、今次制裁を強化する目的で、イスラーム革命防衛隊(IRGC)の幹部8名を制裁対象とすると発表した。また、近く、ザリーフ外相も制裁対象に加えられる見通しとなっている。

 本制裁は、先日発生した米国の無人偵察機撃墜事件などに対する報復行動とされ、トランプ大統領のツイッターで予告されていた。

 

評価

 今般の制裁は、イランに対する最大圧力キャンペーンの一環である。圧力を強めることでイランに米国側の要求を受け入れさせることが目的とされている。ハーメネイー師や最高指導者事務所を制裁対象とすれば、これに関係する組織を全て制裁対象とすることが可能となるため、字義通り、大きな圧力とはなるだろう。しかし、最大の打撃となる制裁は既に昨年発動済み(第1弾第2弾)であり、IRGCも今年4月に外国テロ組織(FTO)に指定されているため、経済的に大きな影響を与えるわけではない。イランを徹底的に追い込む姿勢が更に強化されたという意味合いが強いと見てよいだろう。

 トランプ大統領は、制裁で困窮すればイランが対話に応じると考えているようだが、実際のところ、制裁の度に態度の硬化を招くという悪循環に陥っている。外務省のモウサヴィー報道官がツイートしたように、特に今次最高指導者を制裁対象としたことは、イランの正当性を蔑ろにすると共に国際協調のあり方にも逆行するため、外交交渉ができる相手ではないという印象を更に強めることになったように見受けられる。

 昨年5月に米国がイラン核合意(JCPOA)を離脱して以来、イランは国際社会からの実質的な支援をほとんど得られないままJCPOAに留まり続けてきた。その中で一貫して、米国がJCPOAに復帰してイランが被った経済的損失を補填することを主張し続けている。米国は今般の制裁を、イラン政府の悪意ある行動やイランによってもたらされたエスカレーションへの対応と主張しているが、緊迫化の責任をイランにのみ押し付けているように見受けられる。

 先日、無人偵察機撃墜の報復攻撃が発動寸前であったことが明らかにされたが(6月21日付のトランプ大統領のツイート)、米国によるイランへの対応は、中東情勢を更に緊迫化させる危険性を孕んでいる。24日、国連安全保障理事会は緊急会合を開き、対話による解決を求めることで一致した(声明の採択には至らず)。しかし、現況に鑑みれば、イランと米国の二国間解決は困難であるため、事態の緩和には国際社会によるフォローが不可欠となるだろう。喫緊の動きでは、今週28日、JCPOA当事国がイランの履行一部停止に係る会合を行う予定がある。これらの事態に対する具体的な解決策が提案されるか否かに注目したい。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

 ・「UAE:フジャイラ沖で商船・タンカーに「破壊行為」」『中東かわら版』No.30

 ・「UAE:フジャイラ沖で商船・タンカーに「破壊行為」♯2」『中東かわら版』No.31

 ・「サウジアラビア:ドローンによる石油パイプライン攻撃」『中東かわら版』No.32

 ・「イラン:ホルムズ海峡付近でのタンカー攻撃事件」『中東かわら版』No.45

 ・「サウジアラビア:ムハンマド皇太子へのインタビュー掲載」『中東かわら版』No.46

<イスラーム過激派モニター>(会員限定)

 ・「オマーン湾での船舶攻撃事件」(2019年4号)

<中東分析レポート>(会員限定)

 ・「JCPOAのゆくえ」(2018年4号)

 ・「2018年中東情勢の回顧」(2018年8号)

<中東トピックス>(会員限定)

 中東トピックス(2019年5月号)No.T19-02

  「6.GCC:緊迫する域内情勢とサウジの攻勢」

*中東情勢講演会(6月7日)において、現在の米国、サウジ、イランのスタンスが確認され、今後の展望について考察が行われました。

*7月1日の中東情勢講演会 岡 浩・中東アフリカ局長「最近の中東情勢と日本の外交」【会員限定】において、現在のペルシア湾岸情勢についてもお話を伺う予定です。

(研究員 近藤 百世)

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