中東かわら版

№52 トルコ:イスタンブル市長やりなおし選挙の実施

 2019年6月23日、イスタンブル大都市市長選挙のやり直し投票が実施された。これは、5月6日にトルコ高等選挙委員会(YSK)が、与党の公正発展党(AKP)と、同党と協力関係を構築している民族主義者行動党(MHP)からの猛抗議を受け、「3月31日の統一地方選挙でのイスタンブル大都市市長選挙のやり直し」および、僅差で勝利した野党候補の「エクレム・イマムオールの当選取り消し」を決定したことによる。 

 同やり直し選挙への立候補者は、AKPのユルドゥルム、最大野党の共和人民党(CHP)のイマムオール、至福党(SP)のネジデト・ギョクチュナル、愛国党(VP)のムスタファ・イルケル・ユジェルを含めた4名だが、事実上は、ユルドゥルム対イマムオールの一騎打ちとなった。 

 投票は23日17時に締め切られ、即日開票の結果、イマムオールが過半数を獲得、勝利宣言を行った。国営アナトリア通信は、非公式結果としながらも、開票率99.37%時点での2候補の得票率を以下の通り報じた。 

 

 ビナリ・ユルドゥルム(AKP)    45.09% 

 エクレム・イマムオール(CHP)   54.03% 

 

 この結果を受け、エルドアン大統領はツイッターで、「やり直し選挙の結果が、イスタンブルにとって有益になることを願っている。国民の意志が本日改めて示された。私は選挙に勝利したイマムオール氏を祝福する。」とのコメントを掲載した。

 

評価

 今般のイスタンブル市民の選択は、評価に値すると言える。半ば言いがかりに近い状況で選挙のやり直しが実施されたが、過去に例をみないほどの大接戦だった1回目と比較すると(正式結果ではないものの)、約10%もの大差でイマムオールの勝利となった。

 国会議員のみならず、国会議長の座を捨ててまで今回の選挙に臨んだユルドゥルムは、2014年にもイズミル市長選に立候補してCHP候補に破れている。イズミルは、歴史的にCHPが強く、勝利できなかったことに対する同情的な見方も強かったが、今回はAKPの牙城であり、エルドアン大統領の地元でもあるイスタンブルで勝利を逃した。ユルドゥルムは、議院内閣制時代の最後の首相としてエルドアンを支えた側近である。エルドアン大統領は、自身に従順な「イエスマン」である、ユルドゥルムを最重要都市のイスタンブル市長に据えることで、自身の影響力を行使する思惑があったはずである。そのためになりふり構わず再選挙実施までこぎつけたが、結果はエルドアン大統領の目論見どおりとはならなかった。今回の再選挙はエルドアン政権に大きな傷をつけたと言わざるを得ず、AKP党内においても同大統領の求心力の低下は避けられないだろう。

 他方、2度の選挙で勝利したイマムオールは、当初は全くの無名だったが、選挙が注目を集めるにつれて、知名度は飛躍的に上昇した。今回もし勝てなかったとしても、イマムオールは得るものの方が大きかっただろう。だが、イスタンブル市議会は依然として、AKP議員が圧倒的に多く、政治家としての経験が浅いイマムオールが舵取りをしていくのは、容易ではないだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

 ・「トルコ:統一地方選挙の実施」『中東かわら版』No.4

 ・「トルコ:イスタンブル市長選のやり直しを決定」『中東かわら版』No.28

 <中東トピックス(会員限定)>

 ・中東トピックス(2019年2月号)No.T18-11【会員限定】

 「4.トルコ:ユルドゥルム国会議長の辞任と新議長の選出」

 ・中東トピックス(2019年3月号)No.T18-12【会員限定】

 「4.トルコ:エルドアン大統領が、遊説中にニュージーランドのモスク襲撃動画を放映」

 ・中東トピックス(2019年5月号)No.T19-02【会員限定】

 「5.トルコ:イスタンブル市長やり直し選挙の世論調査」

*7月1日の中東情勢講演会 岡 浩・中東アフリカ局長「最近の中東情勢と日本の外交」【会員限定】において、最新の中東情勢についてもお話を伺う予定です。

(研究員 金子 真夕)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP