中東かわら版

№51 イスラエル・パレスチナ:中東和平案の経済面の発表

 2019年6月22日、米国のクシュナー上級顧問は中東和平案(「世紀の取引」)の経済面につき以下の旨発表した。文書名は「Peace to Prosperity The Economic Plan: A New Vision for The Palestine Peaple」(繁栄のための平和)で、136ページから成る()。なお、今般の文書の詳細については、明日からアラブ諸国、イスラエル、世界銀行などの国際機関の間で行われる経済会合(於 バハレーン)にて詳細に協議される予定である。

 

  • 今後10年で無償援助125億ドル、低利融資260億ドル、民間投資110億ドルを提供する。そのうち半分はパレスチナ自治区向け、残りはエジプト、レバノン、ヨルダン向けの融資投資で、179件のインフラ・ビジネスプロジェクトに充てられる。
  •  これらプロジェクトの一部はエジプトのシナイ半島で実施され、その利益をガザ地区の住民が得る。
  • パレスチナの観光部門に10億ドルを充てる。
  • パレスチナ自治区での電気、水道、排水網の整備に向けて投資する。
  •  ガザ地区に対し、5億9000万ドルの無償提供と低利融資を行い、電線網を改修し、100万人を雇用する。
  • この支援により、パレスチナ自治区の西岸地区とガザ市区で約100万人を雇用し、パレスチナのGDPを倍増、貧困率を1桁まで減少させる。

 

評価

 

 今般の米国の発表に関して、アラビア語の各種報道は、米国の和平案の正否について否定的に報じている。その理由は、第1に紛争当事者であるパレスチナ側の不在である。PA(パレスチナ自治政府)は「世紀の取引」と呼ばれる米国の和平案を拒否しており、バハレーンの会合にも参加しないと発表している。PAは、イスラエルとの紛争は政治的に解決される必要があると主張しており、パレスチナ国家建設など政治面の計画を欠いた米国の和平案を拒否している。第2に、政治的解決が必要との立場は、ヨルダンやレバノンの立場でもある。これらの国は、イスラエルとパレスチナが政治的合意を結ぶにあたって、自国との境界の画定など紛争当事者としての合意を必要としており、米国がイスラエル・パレスチナ紛争の解決策の経済面だけを推進する状況を受け入れていない。

 とはいえ、バハレーンの経済会合は予定通り実施される見通しだ。中東諸国からはエジプト、ヨルダン、カタル、UAE、サウジ、モロッコ、イスラエルが参加する予定だ。イスラエルに加え、パレスチナからもビジネスマン10名が会合に参加するとの報道もある。だが、エジプトやヨルダン等は、財務省の次官級等を派遣すると発表することで、会合の政治化を回避する立場、ないしは政治的解決が必要という自国の立場を米国に伝えており、現状、米国の和平案が、バハレーンでの会合で大きな成果を得る雰囲気は醸成されていないように見える。

(研究員 西舘 康平)

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