中東かわら版

№40 アルジェリア:大統領選挙の延期

 6月2日、選挙過程を監督する憲法評議会は、大統領選挙への立候補者全2名を失格とした。これにより大統領選挙の実施が不可能なため、ベンサーリフ暫定国家元首に選挙のやり直しを命じた。新たな選挙日程は発表されていない。

 予定されていた7月4日という大統領選挙の日程は、憲法第102条が暫定国家元首の最大任務期間を90日を定めているために設定された。アブドゥルカーディル・ベンサーリフ暫定国家元首は、ブーテフリカ辞任後の4月9日に同ポストに任命された。

 

評価

 大統領選挙が延期されることは、最近の政治過程から予想されていた結果であった。ブーテフリカ辞任後の実質的な最高権力者であるガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長は、選挙よりも国民対話の実施によって新政権への移行方法について合意を形成すべきとの抗議デモ参加者や野党の要求を排し、予定通りに大統領選挙を実施することを主張していた。しかし、現体制の重要な支持基盤である「全国ムジャーヒドゥーン組織」(退役将校団体)も、人民からの国民対話の要求を受け入れよと声明を出すに至り、大統領選挙の実施に否定的な見方を示した。そもそも、大統領選挙に立候補した人物のほとんどが無名であったことも、大統領選挙の実施に影を落としていた。77名が立候補したようだが、その多くが無所属であり、最終的に憲法評議会によって立候補を申請したと発表されたのも無名の2名だけであった。

 このような有力候補者の不在や、大統領選挙の延期と対話への要求の高まりのなかで、5月29日、ガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長は国民対話を行うと発表し、この時点で大統領選挙の延期は確実視されていた。対話の日程は発表されていないが、対話では大統領選挙の実施に向けた議論が行われるとみられる。どのような勢力が対話への参加が許され、対話によって今後の政治行程について合意に至るのか、また軍はどの程度対話に介入する可能性があるのか、といった問題が注目される。軍内部には、ブーテフリカに解任された元幹部で、ガーイド・サーリフを快く思わない勢力が存在し、彼らがガーイド・サーリフの影響力を削ぐために介入することも考えられる。自身の軍人としての地位や政治生命を守りたいガーイド・サーリフ、彼と対立する一部の軍幹部、野党、抗議デモ参加者、それぞれの思惑が今後の政治過程に影響を与えるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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