№36 パレスチナ:米国の経済会合をめぐるアラブ諸国の反応
5月19日、トランプ米大統領はバハレーンでパレスチナの経済成長の方途に係る国際会合を6月25日、26日に開催すると発表した。本会合で米国の中東和平案の経済面が協議される見通しである。この発表に対しPA(パレスチナ自治政府)は19日、会合への不参加を表明し、27日にレバノン(政府筋)も不参加を表明した。他方、22日にサウジが会合への参加を表明し、UAEが会合の実施を歓迎した。また26日にカタルは、和平に必要な経済成長はパレスチナ人が受け入れる政治的解決によって実現されると述べつつも、会合への参加を示唆した。こうした動きに対し、PAは26日、パレスチナ問題は経済問題ではなく、政治的解決が必要だと主張し、政治会合への参加を表明したアラブ諸国に対して再検討を呼びかけた。
その一方で、米国は5月28日、上記の経済会合への支援を取り付けるために、クシュナー米大統領上級顧問がモロッコ、ヨルダン、イスラエルなどを今週訪問すると発表した。
評価
現時点で、米国の発表に対する立場を明確にしているアラブ諸国は少数に留まっている。米国の中東和平案と上記会合との関連が取り沙汰されるなかで、肝心の和平案が公表されていない以上、アラブ諸国が反応できないのは当然の事だろう。またアラブ諸国には、パレスチナ国家樹立の目途が立たないまま、経済面での既成事実が固定化されるのを避けたいという建前がある一方で、米国やイスラエルとの関係を害してまでパレスチナ国家の独立を支援する負担や責任を負う意志や能力は無い。直近の動きだと、今年の3月にチュニスで開催されたアラブ連盟外相サミットにおいて、パレスチナの財政問題を支援するアラブ・セーフティー・ネットワークが採択され、毎月1億ドルがPAに支給されることになった。こうした取り組みは米国のパレスチナへの支援削減等で生じた予算の不足分を補填するはずだったが、未だ支給は実施されていない。さらに、サウジが水面下で米国の中東和平案を受け入れるようPAに圧力をかけているほか、エジプトやUAEが米国の和平案に関心を示しているとの報道もあり、アラブ諸国が今般の会合についてPAの立場を支持する機運は低いと言える。
上記のようにアラブ諸国の反応が鈍いことが、クシュナー大統領上級顧問による中東諸国への訪問の動機になったと考えられるが、和平案が公表されなければ、アラブ諸国からの反応を得ることは難しいだろう。こうした状況下では、中東和平のこれまでの取り組みの基礎である二国家解決に向けて国際社会がどのような行動を取るかによって、アラブ諸国の行動が変わる可能性もあるだろう。
(研究員 西舘 康平)
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