中東かわら版

№35 イラク:地域情勢緊張の影響

 2019年5月15日、アメリカの国務省は「イランからの直接の脅威が差し迫っている」と主張してイラクに駐在する外交官のうち「非基幹要員」を退避させること、在イラク大使館とアルビルの領事館での査証業務を一時取りやめることを発表した。イラクにおける「イランによる脅威情報」やアメリカの動きを受けた、各国の主な反応や情勢の推移は以下の通り。

 

評価

 実際の「脅威」の有無やその内容はさておき、アメリカの措置や情報発信を受け、一部の国による対イラク援助や、企業の活動に影響が出ている。これが他の諸国・企業にも拡大するようならば、最近イラクとアラビア半島諸国との間で進んでいる関係改善など、イラクの社会・経済にも悪影響を及ぼすだろう。イラク国内の「親イラン」勢力と目される「人民動員」などの民兵諸派は、民兵を維持しつつ2018年の国会議員選挙などを通じて政党として政治の場にも進出しており、これらの諸派にとってイラクに対する各国の支援や国際的な企業の経済活動を決定的に損なうような治安悪化は望ましくないだろう。

 なお、グリーンゾーンへの砲撃は珍しいことではなく、2015年以降中東調査会で記録しているだけでも3件(2015年5月、2017年2月、2018年9月)発生し、いずれも人的被害は出ていない。また、グリーンゾーンの周辺で行われる抗議行動や、デモ隊による同地区への突入の試みも同様で、こちらも2015年以降少なくとも5例(2016年4月、同5月、同6月、2017年2月、2018年7月)ある。砲撃でも抗議行動でも、イラクの政治勢力にとってグリーンゾーンを攻撃する行為は、政府に対する不満や政府との意思疎通の不調を示す示威行為としての意味もあろう。19日の砲撃については、その主体や意図が不明だが、イラクの治安に不安があると印象付けるという意味で、アメリカの情勢認識、脅威認識を外部に印象付ける効果があるだろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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