中東かわら版

№34 イラン:ザリーフ外相の訪日

 5月15日、ザリーフ外相は3日間の行程で日本を訪問した。そして、16日午前、同相は河野外相との間で外相会談を行い、安倍首相を表敬訪問した。

 日本外務省によれば、外相会談において、日本側はイランがイラン核合意(JCPOA)の一部履行停止を表明した件につき、JCPOAからの離脱ではない点に留意しつつも、情勢の不安定化を懸念してイランに対し強く自制を求めた。イラン側は、JCPOAと中東域内におけるイランの立場について説明した。

 

評価

 今般の訪問は、苦境深まるイランが、外交交渉により事態を緩和しようとする試みの一環であると考えられる。米国はJCPOA離脱と制裁再開に加え、イスラーム革命防衛隊(IRGC)の外国テロ組織(FTO)指定やイラン産原油の禁輸免除措置の撤廃、中東への空母派遣決定など、イランに対する圧力を強めてきた。また、先日発生したフジャイラ沖での商船・タンカーに対する破壊行為や、サウジでのパイプラインに対する攻撃に際し、背後にイランの存在をちらつかせるような報道も増加しており、一方的にイランを追いつめる風潮が醸成されつつある。

 米国の圧力や憶測が強まる中にあってもなお、イランはJCPOAに留まり、国際協調路線を堅持している。JCPOA当事国の具体的な支援を取り付けられないまま、イランはこの1年、ほぼ独力でJCPOAに留まってきた。期待されていた英、独、仏とEUによる13日の外相会合でも、貿易取引支援機関(INSTEX)の数週間内の稼働などが検討されたものの、見通しは依然不透明なままとなっている。

 こうした逆境の中、ザリーフ外相が歴訪を開始した。同相には政治・経済の高等使節団が随行しており、12日にトルクメニスタン、13日からはインドを訪問している。今次の訪日はそれに続く形で調整されたものである。

 日本も含めたこれらの国々は、伝統的にイランとの友好関係を維持してきたが、米国の制裁に対して強い反意を示すことができなかった。今般の歴訪は、こうした国々に、再度イランの現状を訴え、友好関係を強化する狙いがあったものと見られる。特に、日本は米国と同盟関係にありながらイランとも友好関係を持つ稀有な存在であり、その外交には期待が寄せられてきた。そして今次の訪問は、イランとの対話に関心を寄せていた河野外相の招待により実現したとされている(15日付『タスニーム通信』)。これは日本が必ずしも米国の思惑に追従するものではないことを示している。一方で、日本が自制を求めたことは、イランとの友好関係維持を望みながらも、米国との関係に配慮を示した形になる。

 JCPOAの維持には、当事国及び国際社会からの具体的な支援が不可欠である。また、イランを追い込むような世論を鎮静化させることも重要な動きとなるだろう。先日言及されたINSTEXの稼働や米国の動きへ自制を促すといった具体的な動きが出てくるか否かに注目したい。

(研究員 近藤 百世)

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