中東かわら版

№32 サウジアラビア:ドローンによる石油パイプライン攻撃

 5月15日、サウジ国営通信(SPA)をはじめとしたサウジ国内メディア、及び汎アラブ・メディアは、ファーリフ・エネルギー・産業・鉱物資源相と、サウジ・アラムコ社による公式な発表に基づいた情報を中心に、リヤド州の石油パイプライン施設がドローン(無人機)による攻撃を受けたと報じた。

1. 5月15日(火)午前6時~6時半の間、リヤド州のダワードミー県とアフィーフ県にある、それぞれのサウジ・アラムコ社所有の石油パイプライン施設が攻撃を受けた。

2. パイプラインは東部州で採掘された石油を西部紅海沿いのヤンブウ市の港に輸送するためのもの。

3. 攻撃はドローン(無人機)によるもので、「No.8ステーション」で火災が発生したが、すでに消し止められ、損害も部分的なもの。

4. サウジ・アラムコ社は損害部分の修理が完全に終わるまで、同パイプラインによる石油輸送を中止する他、関係当局も対応に取り組んでいる。

5. ファーリフ・エネルギー・産業・鉱物資源相は、本件を「サウジのみならず、世界のエネルギー安全保障、グローバル経済を標的としたもの」で、「イランが支援するフーシー派(※正式名称:アンサール・アッラー)を含めた、このよう破壊的活動を行うテロ・グループに立ち向かうことの重要性が改めて示された」と訴えた。

6. サウジの専門家によれば、今般使用された、ミサイルを搭載したタイプのドローンの操縦には、相当な技術が必要とのこと。

7. なおフーシー派側のイエメン軍はドローン7機でダワードミーとアフィーフの送油施設を攻撃する作戦が成功したと発表した。

 

本事件の関係都市(地図:筆者作成。距離は概算)

 

評価

 サウジ側は、本件がイエメンのフーシー派によるものであることを強く示唆し、国内及び関連報道の論調もこれに倣っている。さらに本件を「世界」の「グローバル」な問題と言い表すことで、サウジ側としては、フーシー派への警戒や敵意を世界全体に共有させようとの思惑が見てとれる。またフーシー派に関して、「イランが支援する」グループであるという説明もサウジ側の常套句であり、フーシー派への敵意をひいてはイランへの敵意に転換させたいとの取り組みも、やはり常套手段である。5月12日にUAEフジャイラ沖で起こった商船への「破壊行為」(『中東かわら版』No.30, 31を参照)と併せて、イランを米国との共通の敵から世界共通の敵へとスケールアップさせて、世界に広めたい考えがあると思われる。

 フーシー派による攻撃に関して、これまで概ねサウジ側は、「防いだ」として軍当局の貢献を称える形で報じるのが一般的であった。このため今般のように、明確かつ迅速に「被害を受けた」と報じるのは珍しいとも言える。この背景には、イエメンへの軍事介入が長期化し、戦争に伴う人道危機への注目が高まる中(この理由には、「イスラーム国」の衰亡に伴って、世界の関心がシリアから徐々にイエメンに移っていることもある)、サウジが「加害者」と位置づけられる状況を少しでも改善する目的で、フーシー派の脅威を広く認知させるとともに、先述の商船「破壊行為」が起こったタイミングで、本件を国際社会におけるイランの孤立という、より大きな目標のために最大限利用しようとの狙いがあると思われる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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