中東かわら版

№26 サウジアラビア:イスラーム主義者のテレビ出演

 5月7日、汎アラブ・メディアであるロタナ・メディア・グループ所有の「ロタナ・ガルフ・チャンネル」(親サウジ)の番組「リーワーン」に、サウジの著名な宗教学者で「サフワ」(「覚醒」の意)グループの顔役であったアーイズ・カルニー(1960年生)がゲストとして生出演した。サフワは1980~90年代、ムスリム同胞団の思想的影響を受けてサウジ政府に対して政治改革を要求した知識人グループを指す。カルニーが生放送で語った概要は以下の通り。

 

 「私」(カルニー、以下同)は、サフワのあり方がイスラームの無誤謬な教え、また寛容なあり方とは異なるものであったことを、サウジ市民に対して謝罪する。今日の私は、ムハンマド皇太子が呼びかける寛容なイスラームを支持している。宗教は人類にとって慈悲と安寧でなくてはならない。

 

 サフワの活動が盛んだった時期、カタルは衛星放送「アル=ジャジーラ」を使って、サウジ政府に反対する人々を自分たちの側に取り込もうとしていた。ハマド・ビン・ハリーファ前首長は私に接近したが、私はこの意図に気が付いた。このようにして同胞団関係者を支援し続けたカタルは、同胞団が起こした行為の責任の一端を負っている。

 

評価

 カルニーのテレビ出演と改悛の告白は、政府側の働きがけか、カルニー側の政府への忖度のいずれかによって実現したと考えられる。カルニーが言う「ムハンマド皇太子が呼びかける寛容なイスラーム」が指すのは、「未来投資イニシアティブ・サミット」(2017年10月、於リヤド)で話題に上った「1979年以前の中道・穏健なイスラーム」であろう。この際、同皇太子は「サフワの問題が広がったのは1979年以降だ」と述べており、この点、元サフワの経歴を持つカルニーの登場と告白は時宜を得たものと言える。加えて、カタルが同胞団を支援してきたことへの言及は、カタル封じ込めに取り組む体制への理解を視聴者に促す面を持つ。以上を踏まえ、カルニーの告白はイスラーム主義勢力とこれを支援するカタルの孤立化を狙う体制に正当性を与えようとするものであると判断できる。

 こうしたイスラーム主義批判は、本来なら、「公式」なイスラーム言説の形成を役割とする宗教界が担うべきものであるが、近年は体制が宗教界の影響力やメディアへの露出を制限している向きも見られる。今般、ラマダン月という宗教的に重要なタイミングで、敢えて「いわくつき」のイスラーム主義者がメディアに登場したことは、体制と宗教界の現在の関係を反映した結果と見ることも可能である。

(研究員 高尾 賢一郎)

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