中東かわら版

№22 サウジアラビア:「テロ」受刑者37名の死刑執行

 4月23日、内務省は、「テロ」の罪状で死刑判決を受けていたリヤド州、マッカ州、マディーナ州、東部州、カシーム州、アシール州の受刑者37名に対する死刑執行を発表した。発表によれば、受刑者は過激主義思想の持ち主で、テロ組織の細胞として、社会の治安を乱し、混沌をもたらす行動を計画・実施し、宗派対立を扇動し、爆弾等を用いて治安機関を攻撃し、多数を殺害した人々であり、敵意を持った機関の協力を得ていた。また同省は、「政府が国家や国民の安全を乱す者は誰であれ容赦せず、今般の措置(死刑)はかような罪を犯した者が辿るべき運命だ」と強調した。なお本件に関して、海外では、処刑された37名の大半はシーア派だとする報道もある。

 

評価

 同日37名に対する死刑執行は、近年のサウジアラビアでは類例を見ない大規模なもので、国内のメディアは本件をトップ・ニュースの一つとして報じている。4月に入り、国内では東部州カティーフ市での検問所襲撃(7日)、リヤド州ズルフィー市での国家保安庁(Presidency of State Security)事務所襲撃(19日)、リヤド州で「テロ」を計画した13名を逮捕(22日)、国外では21日のスリランカでのホテル等爆破(サウジアラビア人2名が巻き込まれて死亡)と、治安関係事案が続いている。カティーフの実行犯は過去に「テロ」を実行した容疑で指名手配中で、ズルフィーとスリランカについては「イスラーム国」が犯行声明を発表していた(『中東情勢分析:イスラーム過激派モニター』2019年2号参照 ※会員限定)。いずれの事件もサウジアラビアにとっては突然のものではなく、むしろ積年の課題と言える。この点、今般の死刑執行は、規模とタイミングの両面で、国家の治安を脅かす思想・活動には厳罰を以って臨むとの政府の姿勢を大々的にアピールするためのものと見ることができる。

 加えて考慮すべきは、内務省が「宗派対立を扇動」と述べたように、また海外の一部の報道が「37名の大半がシーア派」と指摘するように、今般の死刑執行がイランに対する強硬姿勢の表れだという可能性である。4月に入り、アメリカがイランの革命防衛隊を外国テロ組織に指定し、さらに国際社会に対するイラン産原油の禁輸措置を進めた(『中東かわら版』2019年度No.9, 21参照)。サウジアラビア政府は国際社会におけるイランの孤立化を強く望んでおり、(受刑者にシーア派を多く含むとされる)大規模な死刑執行は、こうしたイランの状況を見計らったものだとも考えられる。

 なお、サウジアラビアでは2017年以来、ムハンマド皇太子の主導で治安機関の再編が進められる中(『中東かわら版』2018年度No.96参照)、治安機関としての内務省の役割低下が見られていた。しかし上記ズルフィーでの事件の負傷者をアブドゥルアジーズ内相が病院に見舞う様子や、同省による今般の死刑執行の詳細についての発表が報じらる様子からは、治安関係事案における内務省のプレゼンスが一定程度保たれていることを示している。

(研究員 高尾 賢一郎)

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