中東かわら版

№21 イラン・米国:イラン産原油禁輸免除措置、完全撤廃へ

 4月22日、ポンペオ米国務長官は、日本を含む8カ国に与えられていたイラン産原油の禁輸免除措置について、5月2日をもって完全撤廃する方針を発表した。国務省の広報によれば、原油市場の混乱を避けるため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)を中心とした石油輸出機構(OPEC)加盟国が不足分を補填することで合意しており、米国も石油の生産と輸出を増加させていく方針とのことだ。

 

評価

 今般の発表は、先日報じられたイラン核合意(JCAPOA)離脱1周年を記念した追加制裁の一環と考えられる。ポンペオ米国務長官は、会見やツイッターでイランに対する最大圧力となると述べており、先般のイスラーム革命防衛隊(IRGC)の外国テロ組織(FTO)指定と併せて、イランの動揺を誘うことが目的となっている。

 原油輸出はイラン経済の要であり、禁輸免除措置を受けた8カ国のうち、中国、インド、韓国、日本が輸出先の上位4カ国であったことからも、イランが更なる苦境に立たされることは間違いないだろう。しかし、今般の決定が直ちに動揺を与え、イランを極端な行動に走らせるとは考えにくい。

 禁輸免除措置が180日という短期間であったことから、既にイラン産原油の輸出は日量100万バーレルを下回るレベルにまで減少している。そのため、今般の事態はある程度想定の範囲内であったと考えられよう。外務省のモウサヴィー報道官の声明にもあったように、イランは外交交渉によって現状に留まる努力を続けている。挑発に乗り、JCPOAを離脱するといった具体的な行動に移してしまえば、国際社会から完全に孤立してしまうことを理解しているからである。そのため、現政権は国内外の不満を調整しつつ、現段階においても国際協調路線を強固に維持し続けている。

 禁輸免除国であった中国トルコは、今般の発表に対して反発しているが、残りの6カ国は米国の意向に従わざるを得ない。日本でも、禁輸免除措置の延長交渉が捗らないことに鑑みて3月から順次輸入を再停止し、サウジ産原油などへの代替調整に入っていた。そのため、国内の供給についてはそこまで大きな影響はないものと見られている(例えば、23日閣議後の記者会見における世耕経済産業相のコメント)。だが、ベネズエラやリビアなどの産油国が政情不安に陥っている中で今般の決定がなされたことは、国際社会に更なる供給不足の不安感を広げることにつながる。米国は、イランを追いつめることに固執するあまり、国際社会の不和と不安定を醸成しているように見受けられる。

(研究員 近藤 百世)

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