中東かわら版

№23 エジプト:国民投票で憲法改正案承認

 4月23日、国家選挙機構は、憲法改正国民投票の結果について、賛成88.83%、反対11.17%で憲法改正案が国民に承認されたと発表した。投票率は44.33%だった。(憲法改正案の概要については、『中東かわら版』2019年、No.20を参照)

 

【憲法改正国民投票の結果】

投票日 4月20~22日(在外投票:4月19~21日)

有権者数

     61,344,503

投票者数

     27,193,593

 有効票

     26,362,421

 無効票

        831,172(3.06%)

投票率

       44.33

賛成

   23,416,741(88.83%)

反対

     2,945,680(11.17%)

 

 

 

 

 

 

  (出所)『アフラーム紙』より作成。

 

評価

 自由な政治活動が厳しく制限されているエジプトにおいて、国民投票が憲法改正案に賛成という結果で終わることは当初から予想されていた。国家選挙機構は、投票は高い透明性が保たれて実施されたと報告し、投票過程を監視した国内外のNGOからも大規模な選挙不正の報告はなかったと発表した。政府の強い統制下にある国内メディアの多くは、国民が憲法改正案承認の結果に喜ぶ様子を報道している。

 他方、海外メディアは、有権者に賛成票を投じさせる見返りに食料品や現金を提供する行為や、有権者がバスに乗せられて投票所に運ばれる様子を報じた。これらは、警察、国家・地方公務員、大統領支持派の政党や国会議員などが主体となって、低所得者層の多い地区で行われているという。しかし、国家情報サービス(SIS)はこうした報道は虚偽であると反論している。このような投票誘導行為はムバーラク時代から見られたため特別ではないが、そうでもしないと低い投票率で終わってしまう政府側の危機感があるのだろう。政府としては、高い投票率で承認される方が憲法改正の正当性を内外にアピールできるからだ。

 憲法改正により、シーシー大統領の現在の任期は2024年6月までに延長された。2024年の大統領選挙で再選されれば、最大2030年まで大統領でいることになる。大統領と軍に権力が集中し、異議申し立てが極端に抑圧された政治体制は安定した政治運営が可能となるように思われるが、弾圧のみで成立する安定性は、反対派の「ガス抜き」機能が用意されていない点で実は脆弱でもある。再び政治的危機や経済危機が起こったとき、現体制の安定性が真に問われることになるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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