中東かわら版

№14 パレスチナ:内閣改造(ムハンマド・アシュタイヤ内閣)

 4月13日、アシュタイヤ首相は内閣改造を実施した。今般の組閣による人事は以下の表のとおり(『ワファー通信』の発表順、太字・下線は初入閣。下記以外の要人情報は「中東クロノロジー」でアップデートされます)。

宣誓式後(14日)、アシュタイヤ首相は政府計画を発表した。民族的統合(=ハマースとの和解)、PLC(パレスチナ立法評議会)選挙の準備、殉教者・囚人・負傷者の家族の支援、エルサレム防衛、市民の土地に対する不屈の(精神の)強化、経済発展、官民の連携強化を発表した。

 

氏名

役職

補足

ムハンマド・アシュタイヤ

首相

内務相とワクフ相を兼任(任命まで)

2003-2009年PECDAR総裁;2016年12月ファタハ中央委員(第3位)

ジヤード・アブー・アムル

副首相

1996年1月-2006年-PLC議員;1998年8月5日-?無任所相;2007年3月-2007年6月外相;2013年6月-2014年6月副首相;2014年6月-2015年12月副首相兼文化相

ナビール・アブー・ルデイナ

広報相兼副首相

1994年-2004年アラファト議長報道官・特別顧問(99年6月-2000年11月-2001年3月-2002年5月現職)

ファーディー・ヒドミー

エルサレム担当相

元エルサレム商工会議室理事

ハーリド・アシーリー

国民経済相

2007年ヘブロン市長。ビジネスマン(NAPCO会長;1996年にパレスチナ通信会社(Paltel)創設)

マイ・サーリム・キーラ

保健相

女性。UNRWAの保健部門でのキャリア有

ムハンマド・ジヤーラ

公共事業・住宅相

元公共事業・住宅省職員

マルワーン・アワルターニー

教育相

パレスチナ科学技術アカデミー理事:パレスチナ技術大学Kadoorei理事;エルサレム大学副学長

マフムード・アブー・ムワイス

高等教育・学術研究相

元アラブ・アメリカン大学学長(年代不明)

マジュディー・サーリフ

地方自治相

元技師組合長;パレスチナ技師連合事務局長の経験有

イスーハク・シドル

通信情報技術相

パレスチナPolitechnic大学講師

アーシム・サーリム

運輸・交通相

 

リヤード・アッターリー

農業相

2006年パレスチナ民族評議会立候補

ムハンマド・ファッハード・シャラールダ

法務相

 

アーマール・ハマド

女性担当相

女性。2009年ファタハ革命評議会。ファタハ中央委員

ローラ・ムアーイア

観光・遺跡相

女性。2012年5月-2014年6月遺跡・観光相

ナスリー・アブー・ジャイシュ

労働相

2006年1月のPLC選挙に比例区から立候補(バディーラ・リスト)

アーティフ・アブー・サイフ

文化相

2018年2月-ファタハ報道官

アフマド・マジュダラーニー

社会開発相

2012年5月-2013年6月法務相;PLO執行委員、パレスチナ人民闘争事務局長

ウサーマ・サアダーウィー

リーダーシップ・能力開発国務相

 

リヤード・マーリキー

外務・移民相

2007年6月-2007年8月司法長官; 2009年6月-2013年6月外相;2014年6月-外相

シュクリー・ビシャーラ

財務相

2014年6月-2019年4月財務相兼計画相

(http://www.wafa.ps/ar_page.aspx?id=mdMyWEa853310331951amdMyWEを基に作成)

評価

 

 今般の人事では、16名の大臣が初入閣を果たし、前政権(第17期政府)から留任した閣僚の数は5名と大幅な人事の変更があったとされている。いずれの大臣もファタハ党員あるいは今回の組閣に賛同したパレスチナ諸派に属する団体や無所属の個人とされている。他方で、国民経済相のハーリド・アシーリーのようなビジネスマンや、経済の専門家が大臣に任命されていることは、今後、パレスチナ自治政府の政策として経済面が重視されることを示唆しており、実務的な理由も今回の組閣の背景にあったと考えられる。

 他方、すべてのパレスチナ諸派が今般の組閣を認めている訳ではない。3月10日にアッバース大統領により首相に指名され、組閣の任名を受けたアシュタイヤ首相は、パレスチナ諸派と組閣の人事について協議してきた。最終的に9団体と無所属の個人からの承認を得たが、PLOの主要勢力であるPFLP(パレスチナ人民解放戦線)とDFLP(パレスチナ民主解放戦線)からの賛同は得られなかった。両派はハマースとの和解を組閣より先に実施すべきと主張し、組閣への参加を拒否しているからである。今回の人事で、各派が2名まで大臣の立候補者を推薦し、人事の協議を行っていたことに鑑みると、内政面で重要なポストである内務相とワクフ相の任命が延期されている背景には、PFLPとDFLPの不参加があると考えられる。

 また、今般の組閣は、2018年12月のハマースのドゥエイク議長を長とする立法評議会の解散から続くファタハによるハマースの影響力の低下を狙ったものと位置付けられる。そのため、ガザ地区のハマースやイスラーム聖戦機構は今般の組閣を認めていない。ハマースは総選挙、大統領選挙を実施した上で組閣を行うことを要求している。

 このように、今般の組閣は、パレスチナ自治政府としての西岸地区とガザ地区における行政や外交をめぐるPLO諸派間の対立、そしてハマース・ファタハ間の対立を改めて強調することになった。この2つの対立軸は、今後予定されるPLCの選挙に向けてさらに強まるものと思われる。

(研究員 西舘 康平)

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