№12 アルジェリア:ブーテフリカ大統領辞任前後の重要人事
4月2日のブーテフリカ大統領辞任の前後に重要な人事変更が行われている。以下は、時系列で重要人事の動きを示したものである。
3月28日 アリー・ハッダード経営者フォーラム(FCE)会長 辞任
3月31日 アリー・ハッダード氏 汚職容疑で逮捕
3月31日 ヌールッディーン・バダウィー内閣成立 (※閣僚リストは以下を参照)
4月2日 サイード・ブーテフリカ氏(ブーテフリカ大統領の弟)自宅軟禁
4月5日 ウスマーン・タルターグ治安部局担当大統領顧問 解任
4月9日 アブドゥルカーディル・ベンサーリフ国民議会(上院)議長、国家元首に任命
【ヌールッディーン・バダウィー内閣 閣僚リスト】※太字は新任
首相 |
ヌールッディーン・バダウィー(ベドウィー) |
前内務・地方自治体・国土計画相 |
副国防相兼人民国民軍参謀総長 |
アフマド・ガーイド・サーリフ |
2013年から副国防相;2004年から参謀総長 |
外相 |
サブリー・ブーカードゥーム |
前国連常駐代表 |
内務・地方自治体・国土計画相 |
サラーッハッディーン・ダフムーン |
前同省事務次官 |
法相 |
スリマーン・ブラーヒミー |
前最高裁判所判事 |
財務相 |
ムハンマド・ルーカール |
前アルジェリア中央銀行総裁 |
エネルギー相 |
ムハンマド・アルカーブ |
前Sonelgaz社総裁 |
ムジャーヒドゥーン相 |
タイイブ・ザイトゥーニー |
2014年から現職;民主国民連合(RND) |
宗教問題・ワクフ相 |
ユースフ・ベルマフディー |
前サヘル・ウラマー・説教師・イマーム連盟事務局長 |
国民教育相 |
アブドゥルハキーム・ベルアービド |
前同省事務次官 |
高等教育・科学研究相 |
ブージード・タイイブ |
前バトナ第2大学学長 |
職業訓練相 |
ムーサー・ダーダ |
前ガルダイア大学学長 |
文化相 |
マリヤム・マルダシー |
出版社社長;ジャーナリスト |
郵便・情報通信・デジタル技術相 |
フダー・イーマーン・フィルウーン |
2017年から現職 |
青年・スポーツ相 |
ラウーフ・ベルナーウィー |
元フェンシング選手 |
国民連帯・家族・女性問題相 |
ガニーヤ・ダーリーヤ(エッダリア) |
2017年から現職;民族解放戦線(FLN) |
産業・鉱業相 |
ジャミーラ・タマジルト |
前AgrodivグループCEO |
農業・地方開発・漁業相 |
シャリーフ・オマーリー |
前国立農学高等学院(ENSA)副学長 |
住宅・都市計画相 |
カマール・ベルジュード |
前同省事務次官 |
貿易相 |
サイード・ジャッラーブ |
2018年から現職 |
通信相兼内閣報道官 |
ハッサーン・ラーブヒー |
元外務省事務次官 |
公共事業・運輸相 |
ムスタファー・クーラーバ |
前アルジェ地下鉄公社CEO |
水資源相 |
アリー・ハンマーム |
前ベジャイヤ県水資源局長 |
観光・伝統工業相 |
アブドゥルカーディル・ベンマスウード |
2018年から現職 |
保健・人口・病院改革相 |
ムハンマド・ミーラーウィー |
前ルリザンヌ県保健局長 |
労働・雇用・社会保障相 |
ハッサーン・ティージャーニー・ハッダーム |
前全国被雇用者社会保障基金(CNAS)事務局長 |
議会関係相 |
ファトヒー・ホウィール |
人民議会議員(無所属);35歳 |
環境・再生可能エネルギー相 |
ファーティマ・ザハラー・ザルワーティー |
2017年から現職 |
評価
バダウィー新内閣では多くのポストで入れ替えが行われ、テクノクラートが閣僚に任命された。テクノクラートの閣僚任命はこれまでと同様の傾向だが、議会関係相にブーテフリカ前大統領を党首とする民族解放戦線(FLN)以外の人物が任命されることは珍しい。議会関係相に任命されたファトヒー・ホウィールは35歳と若く、現体制に最も不満をもつ若者層を政府に代表させるねらいが政府にあると考えられる。
4月9日には、憲法第102条の手続きに基づき上下院において大統領の不在が確定され、アブドゥルカーディル・ベンサーリフ国民議会(上院)議長が暫定国家元首(大統領)に任命された。しかし、都市部で抗議デモに参加している人々は政治体制の「大変革」を求めており、ブーテフリカ時代から要職に就いているバダウィー首相、ベンサーリフ暫定大統領、ベルイーズ憲法評議会議長の辞任を要求している。今後もバダウィー新内閣に反対する抗議デモが続く場合は、実質的な最高意思決定者であるガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長が閣僚の更迭を決定することもあるだろう。
また、ブーテフリカ前大統領に近い要人(アリー・ハッダードFCE前会長、サイード・ブーテフリカ、ウスマーン・タルターグ大統領顧問)の排除からは、今後、軍の意向に沿う行動をとると思われる人物が治安機構(軍・諜報機関・警察)や経済界の中心に進出していくことが予想される。ブーテフリカ支持派であったFLNやRND(民主国民連合)の中でも、今般の政情不安に責任があるとされる党幹部の交代を求める声が出てきており、治安機構、経済界、主要政党の各レベルにおいて勢力関係の変化が生じると考えられる。
(研究員 金谷 美紗)
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