中東かわら版

№11 イスラエル:総選挙の暫定結果

 4月9日、イスラエルで議会選挙の投票が行われた。現時点での集計作業は97%終了している。12日までに軍の基地で投票した軍人の投票が集計される。現在の投票率は67.30%(投票数4,251,170:有効票4,221,020票、無効投票数30,150票、有権者数6,339,279人)。政党の足切り率は3.25%(4議席に相当)。実際に選挙に参加した政党の数は40。

 各政党が獲得した議席数は以下の表のとおり(獲得議席数順、議席数や投票数はその他の数字と共に随時更新中)。公式発表は官報を通じて発表されるため、以下の表は集計作業97%終了時点のものとなる。したがって、議席数に若干の変化も予想される。議員の宣誓式は、14日から始まり27日に終わる過越祭が終わった後に行われる。

党名

獲得議席

有効投票数

得票率

リクード党

35議席

1,130,332

26.78%

「青と白」

35議席

1,115,289

26.42%

シャス

8議席

256,233

6.07%

トーラ・ユダヤ連合

8議席

246,711

5.84%

ハダシュ・タール

6議席

191,434

4.54%

労働党

6議席

190,886

4.52%

イスラエル・ベイテヌ

5議席

171,993

4.07%

右派政党連合

5議席

158,112

3.75%

バラド・アラブ統一リスト

4議席

154,855

3.67%

クラヌ

4議席

151,418

3.59%

メレツ

4議席

142,601

3.38%

3.25%以下の政党で注目されている政党

ゲシェル、ゼフート、ニューライト

(https://votes21.bechirot.gov.il/nationalresults(数字は2019年4月11日12時29分時点のもの)、『ハアレツ』紙(https://www.haaretz.com/israel-news/elections)を下に作成)

 

評価

 現時点でリクード党と「青と白」連合が獲得した議席数は同数であるものの、リクード党を中心とした連立政権が樹立される見通しである。実際、選挙の出口調査の結果が出始めた時点から、宗教政党・右派政党のシャス、右派政党連合、トーラ・ユダヤ連合、クラヌ党がネタニヤフ氏を首相候補にすることを支持しており、連立に向けて動いていた。これらの党の議席数は60議席に達している。また、右派のイスラエル・ベイテヌについては、自党に利する政党を見極めるために選挙の最終結果を待つと発表しているが、「青と白」との連立はもともと否定している。閣僚ポストや自党の要求事項のために、リクード党との連立表明を引き延ばしている可能性が高い。特にハマースへの強硬策を同党のリバーマン党首(前国防相)は強く主張している。昨年の11月に同氏が国防相を辞任した背景に、ハマースとの停戦への拒否があったことに鑑みれば、ガザ地区へのカタルの資金の搬入を許可したり、ハマースとの一時的な停戦合意を選んできたネタニヤフ首相は、議席が過半数を超えることと引き換えに、ハマースへの対応の変更を余儀なくされるかもしれない。他方、この場合の連立与党には小規模政党が複数含まれているため、内政や外交の問題で各政党の主張が一致しないことで、重大な政策決定を取りにくくなる可能性は高くなると思われる。

 また、米国との関係については、選挙キャンペーン中にトランプ大統領がゴラン高原に対するイスラエルの主権承認、イランの革命防衛隊のテロ組織指定など、リクード党に資する政策を取った。また4月6日にトランプ大統領はユダヤ人共和党連合の会合で演説し、イスラエルとの関係を強調している。さらに、総選挙後に中東和平に関して米国がこれまで公表してこなかった「世紀の取引」が発表されるとの報道もある。これらの動きに鑑みれば、同首相の続投が決まった場合、今後もトランプ政権の後押しを受け、イスラエルが中東和平、対パレスチナ関係で強硬な態度を取る可能性が高いだろう。

 他方、ネタニヤフ首相と在米ユダヤ人コミュニティとの関係も良好とは言い難い。米国の親イスラエルの圧力団体であるAIPAC(The American Israel Public Affairs Committee、アメリカ・イスラエル公共問題委員会)は、2月末の時点で、ネタニヤフ首相が右派政党連合との連立を組むことを発表した際に、ネタニヤフ首相を非難している。3月25日にはネタニヤフ首相(と「青と白」のガンツ氏)はAIPACの年次会合で演説しており、同委員会との関係も重視しているようである。だが、リクード党を中心とする右派・極右政党の連立政権が作られ、これらの政党の主張が反映された政策が実施されるのであれば、同政権と在米ユダヤ人コミュニティの関係が冷え込む可能性は十分あるだろう。

(研究員 西舘 康平)

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