中東かわら版

№9 イラン:米国がイスラーム革命防衛隊をテロ組織に指定

 4月8日、トランプ米大統領がイスラーム革命防衛隊(IRGC)を外国テロ組織(FTO)に指定すると発表した。同日、ポンペオ米国務長官は記者会見で、イラン政府が中東域内のテロ活動を支援していると非難した。また、各国の銀行や企業に対し、IRGCとの取引がないかを確認する責務があると述べ、早急な対応を求めている。米国務省によれば、制裁対象となった場合は、最長で禁固20年の刑が科される可能性もある。この指定は4月15日より有効となる。

 これに対し、ザリーフ外相が、国家安全保障最高評議会(SNSC)の議長でもあるロウハーニー大統領に宛て、報復として米中央軍(US CENTCOM)及び関連部隊をテロ組織に指定するよう勧告する書簡を提出した。同日、SNSCは声明を発表し、同軍をテロ組織に指定した上で、米国をテロ支援国家に指定した。

 

評価

 今般のIRGCのテロ組織指定は、先日報じられた米国によるイラン核合意(JCPOA)離脱1周年を記念した制裁(の一環?)であると考えられる。IRGCは軍事活動だけでなく、傘下の関連企業を通して広く経済活動も展開しており、イラン経済に対する影響も大きい。そのため、今般の指定は、一見イラン経済に甚大な打撃を与えるように見える。しかし、イラン経済にとっての最大の打撃は、昨年2段階に分けて適用された制裁で既に発動されている。また、IRGCについても、関連すると見做された個人・団体併せて970以上が既に制裁対象に指定されている。更にいえば、イランそのものも、1984年の段階でテロ支援国家に認定されており、他国との取引を制限されてきた。そのため、今般の措置に関しては、イラン経済に実質的なダメージを与えるというよりは、イランに対する牽制の意味合いが強いと見た方が良いだろう。

 また、イスラエル総選挙を翌日に控えたタイミングでの発表であったことから、先般のゴラン高原を巡る発言と同様に、ネタニヤフ首相を支援するパフォーマンスの一環ではないかという反応も多い。同首相が、今般の発表直後にツイッターを更新し、トランプ大統領の判断に謝意を示していることからも、そうした見方が強まっている。

 IRGCは、その名称からあたかも危険なテロ組織のようなイメージを持たれがちであるが、れっきとした国家の一組織である。現イスラーム体制成立(1979年)後に、国防省統制下の国軍と平衡する存在として、革命防衛隊省の下に創設された。イラン・イラク戦争時(1980-1988年)に拡張されて現在の形となっており、陸海空軍に加え、情報部隊、特殊精鋭部隊(ゴドス軍)、弾道ミサイル部隊及び民兵組織(バスィージ)などを含めると、12万から12万5000ほどの人員を擁するといわれる。その名の通り、イスラーム革命の防衛と伝播を担当し、現体制を守護することが目的とされており、テロとの戦いや外国への牽制などを担当することが多い。特に国外での特殊作戦に従事するゴドス軍は、現体制の防衛を目的に、イラクやシリアなど域内で活動を展開しているために注目を集めてきた。2007年の段階で既にテロ支援組織に指定されており、ソレイマーニー司令官を始め主要な人物も早々に制裁対象となっている。

 ポンペオ国務長官も会見で述べた通り、米国が国家機関である軍隊をテロ組織に指定するのは初めてとなる。イランが報復攻撃をするのではないかという一部報道もあるが、イラン国内の報道を見る限り、SNSCによる対抗措置が今般の報復であると見做されているようで、即時の軍事行動には至らないと考えられる。米国がJCPOAを離脱した際も、イランは残留を選択した。JCPOAからの離脱は国際社会での孤立を意味するため、イランにとっても得策ではない。そのため、イランは現在まで、過激な発言は繰り返しつつも国際社会との協調に努めてきた。しかし、実際にイランの苦境は深まっている。現在イランが期待しているのは、こうした米国の言動に対する各国の非難や諫言の類であろう。

(研究員 近藤 百世)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP