中東かわら版

№8 サウジアラビア:バグダードで総領事館開設

 4月4日、バグダードで2017年10月以来、2回目となるサウジ・イラク調整会合が開催された。サウジ側代表を務めたカサビー商業・投資相はイラクのアブドゥルマフディー首相らに迎えられ、その後ガドバーン石油相らとの協議を経て、13に及ぶ合意・了解覚書を交わした。これらはイラクにおけるスポーツ施設の建設費用、またイラク人がサウジの大学で学ぶための奨学金をサウジが負担するという経済的な事案を中心とした。

 一方、最も注目されたのは、イラクのハキーム外相他も出席した在バグダード・サウジ総領事館の開所式である。カサビー商業・投資相は、さらにイラク国内の3つの都市で近々サウジ総領事館が開設されること、サウジ・イラク間のアルアル国境検問所が半年以内に開通することを発表し、今後の両国間の人的交流や物流が活発化するとの見通しを述べた。

 

評価

 1990年のイラク(サッダーム・フセイン政権)によるクウェイト侵攻を機に、サウジはバグダードの大使館と、イラクとの国境に接する北部国境州のアルアル検問所を閉鎖した。しかしサウジは2016年1月にバグダードで大使館を再設し、これを皮切りにイラクとの関係強化に取り組んでおり、今回の措置もこの一環と言える。

 サウジがイラクとの関係強化に積極的な背景には、イランとの競合関係がある。フセイン政権崩壊後のイラクでシーア派勢力が権力を握り、これに乗じてイランが域内での影響力を強めるべくイラクに干渉してきたと見るサウジとしては、イラクを自陣に引き寄せ、域内でのイランの孤立を進めたい意向だ。

 こうしたイラクとの関係強化の加速を可能にしている要素として、「イスラーム国」によるサウジ侵入の脅威が低下したことも挙げられる。今般、2015年に「イスラーム国」戦闘員が自爆攻撃を試みたアルアル国境検問所の開通見通しが発表されたのは、このことを示唆している。この点、サウジによるイラクとの関係強化は、「イスラーム国」後の域内秩序を見据えた取り組みとしての性格を備えている。

(研究員 高尾 賢一郎)

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