№1 シリア:「イスラーム国」の構成員の収容キャンプ
2019年4月1日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)は、シリア北東部のフール・キャンプに収容されている「イスラーム国」構成員の女性らの状況について要旨以下の通り報じた。
- 「イスラーム国」の壊滅後、シリア人や、フランス・チュニジア・ロシアなどから来た外国人の過激主義者数千人が残された。彼らは、捜査結果に応じて刑務所や避難民キャンプに収容されている。フール・キャンプには、外国人の女性と子供9000人以上が収容されている。彼らはフェンスによってほかの収容者と隔てられているが、その理由は彼らが「イスラーム国」と密接に結びついていることだ。収容されている女性たちが常に報道機関を歓迎するわけではなく、女性の一人は撮影しようとしたAFPの特派員を殴打すると脅迫した。
- 収容された外国人女性は宗教上の対立を引き起こしており、収容者の一人は、「2013年にフランスから来た女性が自分たちのイスラーム観を押し付けようとし、我々を不信仰者とみなした」と述べた。
- キャンプを管理するクルド民族主義勢力の幹部の一人は、「女性と子供たちはリハビリを必要としている。彼らは自分たちのもともとの社会に戻るべきで、さもないとテロリストの活動に取り込まれるだろう」と述べた。
- 2013年にシリアに密航したベルギー人の女性は、キャンプの雰囲気は緊張していると述べた。彼女は、「ロシア人やチュニジア人の女性が宗教的に過激であり、その者たちは自分が(クルド民族主義勢力の男性)戦闘員と会話したり、市場に行きたいと求めたりしただけで、不信仰者扱いしてきた」と述べた。
- 収容者間の意見の相違は激化しており、一部は争いに介入した警官らに投石した。キャンプが過密で、特に援助物資の配分の際に混みあうことが争いの原因と思われる。収容者たちは警備員が同行すれば市場に行くことができるが、携帯電話や連絡先リスト、貴金属を持ち込もうとする者もいる。こうした物品は、外部との連絡や密輸を禁じるため厳しく取り締まられている。
評価
シリア民主軍が管理する収容キャンプは西側諸国の報道機関の立ち入りが比較的容易なため、収容されている「イスラーム国」の構成員について取材した情報も多い。今般の記事で紹介された、収容されている者の一部が依然として「イスラーム国」を信奉していたり、同派の極端な宗教実践を続けたりして他の収容者を圧迫しているとの情報も、初出というわけではない。ここで注意すべきは、そうした「過激な」収容者に脅かされている者たちも、実は「イスラーム国」の実態や犯罪行為が明らかになっていた2013年以降にシリアに密航した者たちであり、彼女たちも「イスラーム国」の戦闘員らと結婚し、同派の中で「妻」や「母」という役割を果たしていた者たちだということだ。
すなわち、収容キャンプ内での摩擦や争いには、収容されている「イスラーム国」の構成員の間での主導権や権力をめぐる争いとしての側面もあるということだ。従って、「過激な」収容者にだけなにがしかの措置を講じることや、「過激でない」(ことになっている)収容者に配慮やリハビリの措置を施しても、根本的な解決には至らない可能性が高いのである。
(主席研究員 髙岡 豊)
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