中東かわら版

№118 イエメン:家庭用ガスの不足のため、人々は柴刈りに行く

 2019年3月29日付『シャルク・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)は、アンサール・アッラー(俗称:フーシー派)が制圧するイエメンのイッブ県での取材を基に、同地での家庭用ガスの不足・値上がりにつき要旨以下の通り報じた。

  • 闇市場での家庭用ガス1缶の価格が8000リヤール(1ドル約550リヤール)に値上がりしした。これを常時購入する財力がなくなった人々が代わりの燃料としての薪を調達するため、山野に柴刈りに出かけるようになった。ちなみに、アンサール・アッラーがサナアを制圧する前(2014年)は、1缶の価格は1500リヤールだった。
  • イッブ県の住民たちは、ガス不足の原因は十分な監視がない状態でガス販売所の者が商品を闇市場に流しているためと考えている。同県の地方都市の住民は、「毎月ガス缶が家族の人数を問わず1家族につき1缶、アンサール・アッラーの当局が定めた公定価格1缶3500リヤールで販売している。このため、一部の家族、食堂などの経営者、ガス自動車を使用する者が闇市場でガスを購入するようになり、価格が上がった。住民のほとんどは、現在の価格ではガスを買うことができない。」と述べた。
  • 一部の住民は、ほとんどがアンサール・アッラーに所属しているガスの販売所の経営者たちが、市場を支配して新たな価格を押し付けるために危機を引き起こしていると苦情を述べた。ガス販売市場への新規業者の参入が困難なため、市場が独占され、充填不足の缶の流通が常態化している。また、欠品や退蔵もしばしば発生する。

 

評価

 イエメンでは、紛争の進行に伴い、通貨の下落、生活必需品の欠乏、品行率の上昇が深刻化している。ただし、イエメンの通貨であるリヤールは、紛争前の1ドル215リヤールに対し、現在でも1ドル約550リヤールであり、過去8年間でシリア・ポンドの通貨価値が10分の1以下に下落したシリアほど深刻な事態ではないように見える。しかし、イエメン・リヤールは様々な局面で暴落を繰り返し、1ドル800リヤールまで下落したこともある。そうした中でリヤールの価値が持ち直してきたのは、危機が発生する度にサウジなどがイエメン中央銀行にドルを預け入れるからにすぎない。

 すなわち、現在のイエメンは、紛争当事者の一部が、紛争の打開はもちろん、一時的な緩和の目途も立てられないまま、戦闘と外貨や物資の供給を同時に行っている状態にある。このような状態では、リヤールの価値の維持や家庭用ガスなどの生活必需品の供給のための措置は、どれも対症療法的な効果しか上げないだろう。イエメンでは、2017年8月の時点で、家庭用の電力を個人的に太陽光パネルを使用して得ている者の割合が51%に達したとの調査結果もある。イエメン人民が柴刈りや太陽光パネルの使用などの個人的な努力で窮地をしのがざるを得ない状況が緩和する兆しはない。

(主席研究員 髙岡 豊)

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