№31 ヨルダン:所得税法案への抗議を受けてラッザーズ内閣が樹立
2018年6月14日、第1次ラッザーズ内閣の人事が以下の通り発表された(新任、変更のあるポストは太字)。
氏名 |
役職 |
備考 |
ウマル・ラッザーズ |
首相兼国防相 |
教育相から異動。元ヨルダンahli銀行会長、元世界銀行エコノミスト。シリアのアラブ社会主義バアス党創設者の一人ムニーフ・ラッザーズの息子。 |
ラジャーイ・ムアッシャル |
副首相兼国務相 |
変更なし。 |
アーディル・トゥワイシー |
高等教育・科学相 |
変更なし。 |
アイマン・サファディ― |
外相 |
変更なし。 |
アウド・ムシャーカバ |
法相 |
変更なし。 |
アズミー・ムファーファザ |
教育相 |
初入閣。ヨルダン大学学長。 |
アブドゥンナーセル・アブー・バサル |
ワクフ・イスラーム聖地相 |
変更なし。 |
イッズッディーン・カナ―クリーヤ |
財務相 |
初入閣。社会保障公団理事。 |
サミール・イブラーヒーム・ムバイディーン |
内務相 |
変更なし。 |
サミール・ムラード |
労働相 |
変更なし |
ジュマーナ・ガニーマート |
情報担当国務相 |
初入閣。女性。政府報道官兼務。『ガド』紙編集長。 |
ターリク・ハンムーリー |
工業・商業・配給相 |
初入閣。ヨルダン大学法学部副学長。 |
ナーイフ・フメイディ |
環境相 |
変更なし |
ハーラ・ザワーティー |
資源・鉱物相 |
初入閣。女性。ヨルダン戦略フォーラム代表。 |
ハーラ・ハイルッディーン |
社会開発相 |
女性。変更なし。 |
ハーリド・フナイファート |
農業相 |
変更なし |
バスマ・ヌスール |
文化相 |
初入閣。女性。 |
マーリー・カウワール |
計画・国際協力相 |
初入閣。女性。 |
マクラム・カイシー |
青年相 |
初入閣。元外交官。 |
マジド・シュワイカ |
公共部門開発相 |
女性。通信・情報技術相との兼任解除。 |
マフムード・シャイヤーブ |
保健相 |
変更なし。 |
ムーサー・マアーイタ |
政治・議会担当相 |
変更なし。 |
ムサンナ―・ガラーイバ |
通信・情報技術相 |
初入閣。 |
ムニール・ウワイス |
水・灌漑相 |
高等教育・科学相から異動。 |
ムバーラク・アブー・ヤーミーン |
法務担当国務相 |
初入閣。元議員。 |
ムハンナド・シャハーダ |
投資担当国務相 |
変更なし。 |
ヤヒヤ・キシュッビ |
公共事業・住宅相 |
運輸相から異動 |
リーナー・イナーブ |
観光・遺跡相 |
女性。変更なし |
ワリード・ミスリー |
地方自治相兼運輸相 |
新たに運輸相を兼任 |
(2018年6月14日付『ペトラ通信』などを基に作成)
評価
今回の内閣改造の契機は、5月末にヨルダン政府が議会に付託すると発表した所得税法案に反対してヨルダン各県で発生した抗議活動であった。本法案は経済状況の悪化、予算赤字を背景としてIMFとヨルダン政府との間で作成された。現在の一人当たりの控除額8000ディナール、1世帯当たり16000ディナールをそれぞれの所得が超えた場合に5%課税され、さらに5000ディナール所得が増える毎に、その内25%が課税対象となる内容になっており、低中所得者層への負担の大きい税制とされている。
上記の発表を受けて5月30日以降、政権の転覆、税制政策の抜本的な見直しを求めて職能組合や労働組合を中心とする数百人から数千人規模のデモが発生した。これを受けて4日、アブドゥッラー2世国王はムルキー首相の後任にラッザーズ氏を任命し、内閣の組閣を命じている。
こうした抗議発生から内閣組閣までの速やかな動きには、ヨルダンの民衆が政治体制や国王を直接批判するのを避けるために内閣が解散されるという同国の政治の特徴が顕著に示されているといえよう。
他方、ラッザーズ首相の任命と前後して、アブドゥッラー2世国王はUAE、サウジ、クウェイト、エジプトの首脳に電話し、ヨルダンの地域的な役割を確認し、経済支援の約束を取り付けている。6月10日にはアブドゥッラー2世国王、サルマーン国王、クウェイトのサバーフ首長、UAEのマクトゥーム副大統領兼首相がメッカで会談を行い、25億ドル規模の経済支援パッケージ(ヨルダン中央銀行への預金、向こう5年間の国家予算への援助、世銀のヨルダンの利益保証、開発プロジェクトのための成長基金への拠出)のヨルダンへの拠出が合意されている。アラビア語メディアの報道では、こうした湾岸諸国からの経済支援が大きく注目されている。だが、この支援はヨルダンの経済が抱える問題の本質的な解決に繋がらず、ヨルダンが緊縮財政を必要とする大勢に変化は無い。今般の措置がヨルダンの経済問題を先送りしている点は留意すべきだろう。
(研究員 西舘 康平)
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