中東かわら版

№117 シリア:ゴラン高原をめぐる動き#2

 2019年3月25日、アメリカのトランプ大統領はゴラン高原に対するイスラエルの主権を正式に認める文書に調印した。去る21日に同大統領が同地へのイスラエルの主権を認めるべきだと表明した際、シリア、EU諸国、日本、国連などがゴラン高原がイスラエルに占領されたシリア領であるとの立場を変更しないと表明しているが、今般の文書署名に際しても、国連が(被占領地であるという)ゴラン高原の法的位置づけは変わっていないと発表した。

 

評価

 26日付のレバノンの『ナハール』(キリスト教資本)紙は、アメリカの報道機関が掲載した識者の見解などを引用しつつ、今般のトランプ大統領の決定は、長期的にはロシアを利するものであるとの分析記事を掲載した。それによると、今般の決定は、ロシアがシリア紛争への介入で得た軍事的勝利を、中東和平の仲介や地域諸国への影響力拡大という政治的勝利につなげる途を塞いだものである一方、ロシアによるクリミア併合、ウクライナの東部二州(ルガンスク、ドネツク)の問題が将来アメリカ・ロシア間で交渉される際、ロシアに有利な材料となる。また、今般の決定は、占領軍が長期間占領地を制圧し続ければ、大国の見解次第で合法化されることを示唆しており、ロシアだけでなく南シナ海における中国の方針をも方向づけうる。

 中東諸国には、西サハラ問題、UAEとイランとの領土問題、イランとイラクとの国境問題、トルコやアメリカによるシリア領占領など様々な領土問題がある。これらの問題への判断が、アメリカの政界に対する工作や影響力次第で決まるとなると、武力によって現状を変更しようとする様々な当事者の活動を活発化させるとともに、長年培われてきた国際関係・国際法の原則を動揺させることとなろう。そのような事態からは、様々な領土問題を抱える日本も重大な影響を受けかねない。

(主席研究員 髙岡 豊)

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