中東かわら版

№115 シリア:ゴラン高原をめぐる動き

 2019年3月21日、アメリカのトランプ大統領が、ゴラン高原に対するイスラエルの主権を認めるべきであると表明した。ゴラン高原は、1967年の第三次中東戦争の際にイスラエルがシリアから占領した領域である。

 これを受け、国連は「トランプ大統領の表明を受けても、国連の立場は変わっていない」と発表し、副報道官が「国連は、イスラエルによるシリア領ゴラン高原占領が国際法に反すると規定する、全ての安保理決議、総会決議を順守する」と述べた。また、EUもシリア領ゴラン高原についての立場に変更はなく、イスラエルによるゴラン高原への主権を認めないと発表した。

 

評価

 アラブ側から見れば、ゴラン高原は安保理決議242号、338号に基づき返還されるべき被占領地である。また、1981年12月には、イスラエルによるゴラン高原併合を無効と宣言する安保理決議497号が採択されている。中東和平プロセスにおいても、範囲や条件、シリア・イスラエル間の境界をどこに設定するかなどが争点となっていたが、ゴラン高原をシリアに返還することでイスラエル・シリア間の和平を達成するとの方針が取られてきた。ここで、トランプ大統領がゴラン高原をイスラエル領と認めると表明したことは、同大統領による中東和平プロセスの無視・否定の姿勢を一層鮮明にした。

 しかし、今般のトランプ大統領の表明は、単にゴラン高原の帰属についてにとどまらず、中東以外の国際関係にも影響を与えうるだろう。武力による領域の奪取を容認・追認する、或いはイスラエルがそうすることは認めるかのような態度は、中東だけでなく、世界各地で領域の奪取や国境線の現状変更を望む諸国・諸勢力を刺激し、領域をめぐる武力行使や紛争を発生させたり、現在占領下にある諸地域の問題解決を遅らせたりすることを懸念させるものであろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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